藤田社長が「AbemaTV」に“ムキになる”理由:夏目の「経営者伝」(1/3 ページ)
サイバーエージェントの藤田晋社長は、なぜ「AbemaTV」を立ち上げたのか。何を目指しているのか。前回に続いて、藤田社長の経営哲学に迫っていく。
無理なものを何とかするのが仕事
大手IT企業、サイバーエージェントの藤田晋社長は多忙だ。最近は同社が展開するインターネットテレビ「AbemaTV」を成長させるため、寝不足になるほど自社のコンテンツに触れている。
祖業である広告に関しては担当役員に任せているという。藤田氏は「指示を仰ぎたくなって僕に相談しても、『AbemaTV』に夢中で他の事業を見ていないことを社員は知ってますよ」と、顔をくしゃっとさせ笑った。
彼が「ムキになってます」と話すほど「AbemaTV」に入れ込むのは理由がある。きっちりと勝機が見えているのだ。技術は進化し、止まることはない。LTEの普及により、多くのユーザーがスマホで動画を見られるようになった。ネットでの動画サービスを始めるのであれば今がチャンスだ――。前回、「鉄道王に取って代わった自動車王」の話をしたが、彼は動画事業に関しても、まさに今が、変わるタイミングと見ているのだ。
ただし、と藤田氏が話を継ぐ。
「今は、視聴習慣を作ることに注力しています。分かりやすく言えば『手癖』です。家に帰るとまずテレビの電源をつけると言えば分かりやすいでしょうか。また『何曜日の何時になったら必ずこの番組を見る』という人もいると思います。これと同じようにまずは、暇なときに『AbemaTV』を立ち上げる、といった視聴習慣を広げたいんです」
消費者の多くは頑固で、特に無意識の「習慣」は、企業が資金を投じてもすぐに変えられるものではない。それは「文化」を変える試みでもあるからだ。
「だから腰を据えて、時間をかけてやらなければ絶対にできません。ただし成功すれば、将来どんな競争相手が参入してきても『AbemaTV』を抜くのは並大抵じゃなくなると思いますよ。もちろん、実現する価値も大きい。僕はそれこそが『仕事』だと思うんです。そもそも無理なことを何とかするのが仕事であって、無理をせずに楽なことだけをやって結果を出せるほど、世の中甘くありませんからね」
藤田氏は「大きなことをやろうと思ったら、ボロボロになりながらも不可能を可能にする覚悟を持つしかない」と言う。だから彼は、年間数百億円の赤字を計上しても、積極投資を止めない。
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