無資格検査 日産の社長が「謝罪」をしない理由:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
無資格の従業員に「完成検査」をさせていたことが判明した日産自動車が、38車種116万台のリコールの届け出をした。多くのメディアがこの問題を報じているが、筆者の窪田順生氏は同社の「危機管理対応」に注目しているという。どういうことかというと……。
「やっちゃえ」感が強く出ている1つめのポイント
(1)「お詫び」を口にしても頭を深々と下げない
無資格検査が判明したことを受けて10月2日、横浜本社で西川廣人社長が会見を催した。そこでは無資格者による検査が常態化していたと述べて「お詫びを申し上げる」と陳謝したが、実はこれは世間でいうところの「謝罪会見」ではなかった。
『西川社長は会見で頭を深々と下げることはなく、「謝罪会見」とは一線を画した』(産経新聞 10月7日)
一般人の感覚からすると、定められていたルールを破っていたわけだし、116万台という大規模リコールでユーザーに迷惑をかけて、社会の信頼も裏切っているわけだから当然、西川社長が姿を現したのは「謝罪会見」と思うかもしれない。が、日産としては、あれはあくまで「陳謝」であって「謝罪」ではないというわけだ。なぜそんな細かいニュアンスの違いにこだわるのか。その答えは、西川社長がおっしゃった以下の言葉のなかにある。
「検査そのものは確実に行われており、安心・安全に使っていただける」
要するに「無資格検査」というのは単なる「手続き」の問題であって、クルマの安全性にはなんの問題もないですよ、というのが日産のスタンスなのだ。企業の危機管理は、すべてこの「スタンス」に基づいて行われる。
「手続き」に問題があるという点は「陳謝」をする。しかし、検査はバッチリやっていて、安全性に関しては1ミリたりとも揺るがないわけだから、自動車メーカーとして深々と頭を下げる「謝罪」をするような話ではない――。あの会見からは、そのような日産の「スタンス」を読み取ることができる。
このような組織ぐるみの脱法行為が発覚した場合、普通の企業はとにもかくにも謝罪会見を催して深々と頭を下げることが多いが、日産の場合、謝罪カラーを極力抑えて、「安心・安全」というポジティブなメッセージで「カウンター」を行っている。
つまり、社長が深々と頭を下げないことで問題を矮小(わいしょう)化させるという「攻め」の姿勢が感じられるのだ。
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