漫画『カレチ』『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』が描く、国鉄マンの仕事と人生:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
国鉄末期の旅客専務車掌を主人公に、当時の鉄道風景と鉄道員の人情を描いた漫画『カレチ』。その作者の池田邦彦氏に、鉄道員という仕事について話を聞いた。
規則と人情の間で悩む主人公
――作品に広がりが出ますね。荻野車掌は国鉄マンの象徴的な人物像でしょうか。
池田: 実際の現役の車掌さんの思い出話を聞くと、規則は守らなくちゃいけない、でも、ちょっと破っちゃったんだけど、お客さまのためにうまくいったぜ、という話をよく聞くんですね。働く上で、規則との板挟みになりつつ、モチベーションになるように解決していく。この物語性が作家の頭の絞りどころで、主人公、荻野の見せどころになっています。
――あの頃の国鉄マンって、厳しい方が多かったという印象です。親方日の丸っていうか、叱られることが多かった。規則に厳しくて。でも、たまに優しい人がいた。その人情味のある人物像を集めたのが荻野カレチ。
池田: そうですね。人情味っていうところもあるし、あの時代と現代をつなぐキャラでもありますね。今の車掌さんは客商売で、規則は規則だけれども、お客さんに失礼な言葉遣いをするなんてことはないわけだけども、それを知らない現代のお客さまに国鉄を紹介するというキャラだと、ああいう、人情味のあるキャラにならざるを得ない。昔の、本物そっくりの怖い車掌を描いたら、誰も共感してくれない(笑)。
――他にも魅力的な人物がたくさん登場します。ダイヤを守ることにこだわる運転士は、規則に厳格な専門職という印象ですね。荷物車掌は、仕事にやる気を見いだした途端、その仕事そのものがなくなってしまう。これは現在のビジネスマンに通じる悲哀かなと。やりがいを持っていたプロジェクトがなくなってしまうという。そういう部分、現在と重ね合わせたことはありますか。
池田: 結果的にそうなっていったということですね。いまの子ってかわいそうだなという部分があって、目指していったものがなくなっちゃう可能性が高い。あの頃はまだ信じられていた最後の時代なんだろうな。ある意味、幸せに働いていた人たち、でもそれが壊れていってしまう。国鉄末期のそういう過程がカレチでは描かれています。
――そのあたり、現在のビジネスマンに共感されそうです。普段は寡黙だけど、専門知識がすごいヒーローもいる。故障した列車は上り勾配を通過できない。しかし下り勾配なら走る。ならば、上下の列車がすれ違う駅で、乗客をそっくり入れ替えてしまえ。これ、大胆で、スカッとする場面でした。現場がいちばん頑張っていたんだ、というメッセージを込めたのかな、と感じました。
池田: それは実際、そうだと思うんですよ。鉄道しかなかった時代って、私も子どもの頃のおぼろげな記憶でしかないですけど、鉄道員の皆さんは必死でしたよね。簡単に運休とかしないし。何が何でも行くぞと。雪が降りそうだから運休とか、風が吹いたら列車を止めちゃうとか、そんなことはなかった。安全の認識よりも、誇りとプライドで列車を走らせていた時代。当時と現在と、どちらがいいとは言えないけれど、当時としては「走らないと暴動が起きちゃう」というような世相でしたからね。現場が頑張っていた。
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