漫画『カレチ』『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』が描く、国鉄マンの仕事と人生:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
国鉄末期の旅客専務車掌を主人公に、当時の鉄道風景と鉄道員の人情を描いた漫画『カレチ』。その作者の池田邦彦氏に、鉄道員という仕事について話を聞いた。
諦めない乗客を、諦めない鉄道員が運んでいた
――あの頃、長距離移動は鉄道しかない。今みたいに鉄道が使えなければ飛行機、バスでもいいや、とはならなかったですね。高速道路だってできてない。飛行機は主要空港の便しかないし、高くて庶民には手が届かない。
池田: 列車がたくさん走っていて、それぞれにたくさん人が乗っていた。今の東南アジアみたいに。お客さんも必死で、「これに乗れなかったらどうしてくれる」という。「払い戻ししますから、他の乗りもので」なんてことはない。
それぞれの鉄道員は「列車は走らせなきゃいけないものなんだ」と思っていた。宗教で偶像を崇拝するように、鉄道に帰依して、信じて、働かないとやっていけなかった。それが誇りやプライドにつながってたんです。鉄道に人気があったわけじゃないんですよ。それしかない時代です、国鉄時代って。だから鉄道員は責任しかなかった。
――サービス精神とか、「もっと乗ってね」なんて言ってる場合じゃなくて、走らせる責任、送り届ける責任があって、それを全うしなくちゃいけない。それが鉄道員。今だったら、列車が停まっても、2000円も出せばカプセルホテルもある。24時間営業のファミレスもある。深夜バスだってある。だから、鉄道が無くても大丈夫、って諦めてしまいます。
池田: 諦めると命に関わる、とは言わないまでも、今日帰らなくちゃいけない人はたくさんいた。運休になると、駅から放り出されちゃう。赤ん坊を抱えたお母さんも「あたしどうすんの」という状況が生まれるんです。「そうさせるもんか」と。それが鉄道マンの心意気というか、職業観だったと思います。移動を諦められない人を、鉄道を諦めない人が運んでた。
カレチの場合は、列車無線で地上職と連絡が取れるとしても、無線だけでは役に立つかどうか分からない。とにかく列車に乗務している間は、現場で何とかしなくちゃいけない。何かおきたら、カレチが解決しなくちゃいけない。
――船長みたいですね。
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