東京都政「時差Biz」は「都民ファースト」ではない:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
東京都が実施した「時差Biz」キャンペーンを覚えているだろうか。通年キャンペーンだと思ったら、7月11日から2週間のキャンペーンだった。「満員電車を解消するために、2週間の早朝通勤を試してみませんか」という話だ。このキャンペーンで、都民は満員電車から解放されただろうか。
「クールビズ」は良くも悪くも定着した。汗かきの私にとって、「上着なし、ノーネクタイ」を堂々と実践できて良かった。しかし「室温28度」はつらく、自宅では無視した。2017年5月ごろになって、当時の環境省担当課長だった盛山正仁副法相が「なんとなく決めた」と言い出し騒動になった。結局、28度に根拠はあるけれども、それは労働環境で超えてはいけない温度、つまり上限であるというカタチに落ち着いたようだ。「室温は28度」が、いつの間にか「エアコンの設定温度は28度」と誤解されて広まったというオチだ。
28度の根拠だ法令だという真偽はともかく、「クールビズ」の影響は大きかった。さて、この夏、似たような語感のキャンペーンがあった。「時差Biz」だ。東京都知事選挙で「満員電車ゼロ」を掲げた小池百合子都知事の公約実行だ。素晴らしいじゃないか。日ごろ、満員電車でつらい思いをしている人々は「時差Biz」に期待したことだろう。
しかし、フタを開けてみたらどうだろう。鉄道の乗客に対して「朝早く起きて通勤しましょうね。ご褒美もあるかもよ」、企業に対して「社員さんが時差出勤できるように配慮してあげてね」という、ただの声かけ運動に終わった。そう、終わったのだ。時差Bizキャンペーンは7月11日から25日まで。結果としては今までと何も変わらない。
クールビズは夏のノーネクタイを普及させてくれたけど、時差Bizで満員電車は解消できたか。満員電車対策にはなっていない。少しは早朝出勤の心地よさを発見した人はいただろう。現在、時差Bizキャンペーンサイトでアンケートを実施中だから、ぜひ回答してあげてほしい。結果や効果が可視化されないと、事務局や参加企業の担当者が気の毒だ。
関連記事
- 東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。 - 東急の“時差Biz特急” 多摩田園都市通過の本気度
東急電鉄が田園都市線の早朝に特急を新設・増発する。その名も「時差Bizライナー」。小池都知事が提唱する“時差Biz”に対応した列車だ。都議会選挙期間中の発表はあざといけれど、ダイヤを見ると神奈川県民向けサービスになっている点が面白い。 - 「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか
東京都知事選挙で小池百合子氏が圧勝した。小池氏が選挙運動中に発した「満員電車をなくす、具体的には2階建てにするとか」が鉄道ファンから失笑された。JR東日本は215系という総2階建て電車を運行しているけれど、過酷な通勤需要に耐えられる仕様ではない。しかし小池氏の言う2階建てはもっと奇抜な案だ。そして実現性が低く期待できない。 - 日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景
暑くなってきたので「満員電車」が辛くなってきた。「働き方改革を実現しよー」「時差出勤をしよー」と叫ばれているのに、なぜ“通勤地獄”は解消されないのか。その歴史をひも解いてみると、意外な事実が……。 - 「時差Biz」を成功させるために必要なこと
東京都が2017年7月11〜25日にかけて実施した「時差Biz」――。満員電車を解消するためには何が問われているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.