「最後の希望の光」モンストと歩んだミクシィの4年間:ミクシィ森田仁基社長インタビュー(2/5 ページ)
4周年を迎えたスマホゲーム「モンスターストライク」は、ミクシィという会社を救ったタイトルとしても知られている。モンストのヒットで、ミクシィはどのように変わったのか? 「モンスト」に立ち上げから関わるミクシィ森田仁基社長インタビュー。
どれだけ売り上げが伸びても「安心できなかった」
――順調なスタートを切れたということでしょうか。
ユーザーの増え方としては、順調に走り出しました。ですが、見込んでいた事業計画と比べると、売り上げ的には届かない部分があった。ただ、当時のミクシィにとっては死に物狂いで生み出したヒットの芽。この生まれた火種を「絶対に消えないように守るんだ」と囲い込んでいた記憶がありますね。
――当時のユーザーに支持されたのはなぜですか?
モンストはやっぱり「ミクシィのゲーム」なんです。ミクシィのブラウザゲームで人気があったのは「サンシャイン牧場」や「まちつく!」といった、マイミク(ミクシィ上での友人、リアルな友人関係の場合が多い)と遊ぶ非同期型のゲームでした。これは顔の見えない仲間たちと遊ぶ一般的なオンラインゲームとは遊び方が違います。モンストも、イメージとしてはマイミクと遊ぶのに近い。「サンシャイン牧場」が実際に会っていないときの友人とのコミュニケーションを補完しているなら、モンストは実際に会っているときに友人と遊ぶゲームにしよう――というのが初めから考えていたコンセプトです。
ゲームアプリとしては後発組だったので、マーケティング的な観点ももちろんありました。僕も木村も「モンスターハンター」(カプコン)シリーズをすごく楽しく遊んでいたんですよ。リアルで会わないと遊べないゲームだったから口コミで広がっていく成功も見ていたので、モンストもこうした部分を研ぎ澄ませれば後発でも勝てると考えました。
あとは、今思えばですが……「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー)が圧倒的にナンバーワンで、みな「パズドラ」を目指してはいたけれど、まだ2番手が出てきていない状態だったと思います。そんな時期に、「パズドラ」とはまた違うコンセプトを持つモンストが受け入れられ、2番手の位置に滑り込むことができたのではないでしょうか。そういう歴史のドラマもありますね。
――先ほど、ユーザー数の増加は好調だったものの、売り上げが目標に達していなかったとおっしゃってました。どのタイミングから「モンスト」の売り上げが大きくなっていったのでしょうか。
最初の3カ月くらいは目標よりも下回っていましたね。僕はそれまで、ゲームは最初にぐっと売り上げが上がって、そこからある程度下がっていくものだと思っていたんです。ただ、モンストの売り上げの推移はそれとはまったく違っていた。2〜3倍といったレベルではなく、10倍くらいの伸びで増えていきました。
おそらく、口コミ効果やテレビCMを打ったことでユーザー数が圧倒的に増えて、運営も安定してきたので、「そろそろこのゲームにお金を使ってもいいだろう」と思うユーザーさんが増えてきたのだと思います。
――何か大きなイベントやキャンペーンを行った結果、売り上げが急速に伸びたわけではないんですね。
そうですね。基本無料のオンラインゲームの収益モデルは「少数のユーザーがたくさん課金する」というものがほとんどです。ただ、モンストはもう少しカジュアルで、ゲーマーでなくても楽しんで遊べ、たくさんゲーム内課金をしなくても遊べる仕組みにしたかった。だから、ちょっとでもお金を使って遊んでくれるユーザーがたくさん増えてきた結果として、売り上げが伸びたという構図です。
――売り上げがついてきたときは、やはり一息つけたような気持ちだったのでしょうか。モンストのヒットに社内も明るくなったのでは。
いえ、僕の感覚では、どれだけ売り上げがあっても安心できませんでした。「mixi」で大きく売り上げが伸びて、そこからガクンと下降していく――という過去を見ていたので、社内の雰囲気を気にする余裕はなかったですね。とにかくひたすら限界まで伸ばしていくことばかり考えていました。
モンストが出る前のミクシィは本当に苦境に立っていて、実際の売り上げの苦戦も厳しかったですが、メディアからのバッシングも苦しかった。社内にも「ここで働いているのが嫌だな」という空気が漂っていました。だからこそ社内のメンバーに「この伸びに伸びているモンストにジョインして、世の中を変えるゲームを一緒に作ろう!」と声をかけて、どんどんチームに加わっていってもらいました。実は、モンストをリリースしてからしばらくは、外部からの採用をほとんど増やしていないんです。
――新規採用はせず、社内の人員でチームを拡大していったというわけですね。
スマホゲームアプリに関しては誰もがみんな素人で、テレビCMを打つのも運用をするのも初めてという状態でしたが、自分たちでゼロから立ち上げた事業、どうせやるなら自分たちでできるところまでやろうとまずは社内を巻き込んでチームメンバーを増やしていきました。実はそれが正しい選択だったと今では思っています。なぜならミクシィにはサーバ運用のスペシャリストや優秀なエンジニアがたくさんいたので、急速なユーザー増加にもすぐに対応ができたんですよ。仮に落ちたとしてもすぐに復旧できるのは、当時も今も圧倒的な強みです。
――チームメンバーが増えていくと、会議室1つでやっていた当初と比べて、コミュニケーションが難しくなったりはしませんでしたか?
確かに、組織が大きくなればなるほど、コミュニケーションが難しくなることはありますね。木村もそれを分かっていて、毎日朝礼をしてメッセージを伝えています。それに加えてジョインしてもらうときに「このゲームを一緒に成長させていこう」という思いを共有していたので、一気に組織が崩れることはありませんでした。社内公募制度の「mcc」(ミクシィ・キャリア・チャレンジ)を使って、自分から「異動したいです」と来てくれた若い世代もたくさんいました。「やらされ仕事」ではなく、自分で選んでチームに加わる人が多いと、チーム全体のモチベーションは高くなります。
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