失敗から学ぶ LIXILが取り組む組織改革と人材育成:リスクを軽減するために(1/3 ページ)
海外進出する企業にとって、不正などのトラブルは人ごとではない。海外ビジネスのリスクを軽減するために何ができるのか。LIXILグループが取り組んでいる組織改革や人材育成についてCFOに聞いた。
「まさか」の事態が起こるリスクはどの企業にもある。特に、日本とは商慣習が異なる企業を相手にするグローバルビジネスでは、トラブル発生のリスクは跳ね上がる。そのリスクを最小限に抑えるために、財務担当者に何ができるだろうか。
住宅設備の大手メーカー、LIXILグループは2015年、海外子会社の不正会計処理によって損失を出した。不正を再発させないため、どのようなことに取り組んできたのだろうか。副社長兼CFO(最高財務責任者)の松本佐千夫氏に、組織改革や人材育成などについて聞いた。
お金の管理を集約
――海外ビジネスを拡大するにあたって、リスク管理は大きな課題になっています。海外子会社や取引先の状況を正確に把握して管理することは難しいと思います。LIXILグループでは損失を出したことを教訓に、どのような取り組みをしていますか。
さまざまな取り組みをしていますが、海外グループ会社の資金管理の方法を変えたことは、大きな改革の1つです。中国・上海、シンガポール、独デュッセルドルフ、米ニュージャージーの4カ所に「リージョナルトレジャリーセンター」を設置し、各地域にある会社の資金管理業務などを集約しました。それまでは、各社がそれぞれ業務を担っていました。同センターは本社の組織の一部で、個々の会社からは独立しています。
――同センターにはどのようなメリットがあるのですか。
16年夏に同センターを設置した中国には、12社のグループ会社があります。国土の広い中国では、会社がある地域ごとに環境は大きく異なりますし、それぞれ会社の規模もバラバラです。そうなると、財務や経理の仕事でも、質の違いが出てきます。また、1社当たり10前後の口座残高を12社分、各社から日本に毎日集めて管理するのは難しくなります。
財務や経理に関する業務を集約する拠点があれば、12社全ての業務を1カ所でできます。それによって、仕事の方法やレベルを統一し、正確性や迅速性が向上しています。現在は、12月の完成を目標に、全ての口座の残高を翌朝に把握できるシステムの構築を進めています。中国各社の資金情報を、上海と日本が同時にオンラインで把握できるようになるので、さらにリスク管理がしやすくなります。
また、人材確保の面でもメリットがあります。特に内陸部の会社は、経理の人材を確保するのが難しいのです。上海の1カ所であれば、高い専門性を持つ人材を確保できます。以前は12社合わせて二十数人必要だったのですが、4人でできるようになり、効率化にもつながりました。
――まとめて管理することで、不正やミスが発生しにくいオペレーションにしている、ということですね。グループ全体の資金管理を集約することで、経営にも効果がありますか。
不正対策の一環でもある取り組みですが、グループ会社の資金を可視化する、という点においても効果が出ています。
先ほどからお話ししている中国の各社には、余剰資金が偏在していて、資金を効率的に活用できていない状態でした。資金管理を集約することで余剰資金を洗い出し、設備投資などに必要な分以外を他の地域の会社に貸し付けて、外部からの借入金の返済に充てています。グループ内で資金を融通しやすくなったのです。中国など、国境を越えてお金を動かすことに対する規制が厳しい国もありますが、規制緩和の情報を常に確認して対応しています。
――余剰資金はどのくらいあったのですか。
100億円に近い額でした。それが各社に分散して眠っていたのです。
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