電化路線から架線が消える日:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
このところ電気自動車の分野で「全固体電池」が話題になっている。リチウムイオン電池より扱いやすく、大容量。高出力。充電も早く良いことばかり。ぜひ鉄道分野でも採用していただきたい。非電化区間だけではなく、電化区間も蓄電池電車にした方がいい。
鉄道ファンにとって、2018年の最初のイベントは「東北本線黒磯駅電気設備改良切換工事」だろう。しかし見学できるイベントではなく、むしろ作業の邪魔になるから近くに行けない。家でおとなしく結果を待つしかない。だけど、やっぱりこの工事は感慨深い。1959年から58年以上続いた黒磯駅の「電気の境目」(電化方式の切り替え区間)が解消されるからだ。
ただし、この工事に伴って、1月1〜3日まで、黒磯駅にかかる一部の列車が運休する。始発から7時台まで最終電車が区間運休し、バス代行となる。早朝と深夜だから影響は小さいと思うけれど、正月の3が日だった。早朝から初詣という利用者も多いと思うので、沿線にお住まいの方はご注意いただきたい。鉄道ファン諸氏も自宅最寄りの神社に行き、正月返上で作業に当たる現場の皆さんのご無事を祈ろう。
一般の利用者にとっては、ただ一部時間帯がバス代行になるだけの工事だ。この工事に鉄道ファンが注目する理由を理解していただくためには、少々説明が必要だ。
直流電化方式と交流電化方式
基礎的なことから話を始めると、電車は架線から電気の供給を受けてモーターを回転させる。架線がない地下鉄も、線路の脇に電力を供給するためのレールがあって、そこに端子を接触させて電気を受け取る。この電力は大きく分けて直流電化方式と交流電化方式がある。発電所から家庭まで張り巡らされた電力網は、基本的に交流電力が使われる。電線に流れる電気は交流だ。
しかし、電車や工場などで使う高性能モーターは直流方式が主流だった。だから、交流で届いた電気を変電所でモーターに適した直流に変換して架線に流した。これが直流電化方式だ。電車は直流の電気を受け取って、直流モーターを回す。直流電流は送電ロスが大きいため、長い路線では複数の変電所が必要になる。地上設備のコストは大きい。しかし、電車側の回路構造は簡易で製造コストは低い。従って電車を大量に必要とする都会では直流電化が選択された。
都会の直流電化方式は、列車の運行頻度が少ない地方には適していない。変電所のコストが大きいからだ。一方、交流電力は高電圧で電流を流せるため、広い区間に電力を送れる。電車は交流電力を受け取ると、変換回路を経由して直流電力を作り、直流モーターを回転させる。これが交流電化方式だ。地上設備は少なく済み低コストだけど、電車の製造コストは割高になる。しかし、列車が少なければ必要な車両数も少ないから、全体のコストは直流方式より安い。
最近では直流区間の電車も再度交流に変換して交流モーターを回しているし、新幹線は運行頻度が高くても長距離で大電流が必要になるため交流電化を採用している。ちょっと複雑になっているけれども、上記のような歴史があって、大都会は直流電化、地方は交流電化、という鉄道路線網が出来上がった。
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