電化路線から架線が消える日:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
このところ電気自動車の分野で「全固体電池」が話題になっている。リチウムイオン電池より扱いやすく、大容量。高出力。充電も早く良いことばかり。ぜひ鉄道分野でも採用していただきたい。非電化区間だけではなく、電化区間も蓄電池電車にした方がいい。
黒磯駅の電力切り替えは日本で唯一、もっとも複雑だった
直流電化区間は直流電車しか走れず、交流電化区間は交流電車しか走れない。ただし、線路はつながっているから、直流電化と交流電化のつなぎ目がある。そこで、2つの方法が採用された。1つは、直流と交流、2つの電化方式に対応する電車を作る。直流電化区間と交流電化区間の境目には、電流が流れない架線を張った無電区間(デッドセクション)を用意する。電車は無電区間を走行中に回路を切り替えて、電化方式の変化に対応する。車上切り替え方式といって、日本ではこの方式が主流だ。
黒磯駅は日本で唯一の、地上側で電力を切り替える方式だった。当時は機関車が引く列車が多かったからだ。例えば、構内の架線を直流にしておき、直流機関車が到着。客車や貨車と切り離して、機関車は車庫に行く。次に、架線の電力を交流に切り替えて、交流機関車を進入させて、客車や貨車に連結する。黒磯駅付近の電化当時、交流と直流の両方に対応した機関車がなかったからだ。
輸送量のバランスを見ても、直流電気機関車は交流電気機関車より多く必要だった。そのバランスもあって、黒磯駅の地上切り替え方式は残されていた。上野発東北方面の寝台特急も、黒磯駅で機関車を交換していた。しかし、交流直流の両方に対応した電車や機関車が普及すると、黒磯駅構内の電力切り替えはあまり使われなくなっていく。黒磯駅構内にデッドセクションを設置して、車上切り替えを実施した。深夜など、電力切り替えのために黒磯駅で停車させる必要がなくなった。
駅構内の電力切り替えは、いま架線にどんな電力が流れているかを周知徹底する必要があり、手順が複雑だ。電力を間違えれば車両の故障、架線の焼切りなど事故につながる。そして2008年、ついに作業員の感電死事故が起きる。これが黒磯駅の改良工事のきっかけとなった。
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