徳島県のDMV導入は「おもしろい」で突っ走れ!!:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
JR北海道が開発し実用化できず、あまたのローカル鉄道が手を伸ばして撤退したDMV(デュアル・モード・ビークル)を、徳島県が実用化する。しかし現地に行ってみると「3年後に実現したい」という割には盛り上がっていない。
シームレスな交通手段は便利だ
前述の記事がきっかけとなって、12月13日に徳島文理大学公開授業「集客交流産業論」で講師をさせていただいた。「シームレスのすすめ 線路と道路をつなぐDMV挑戦の意義」というテーマだ。DMVとは何か、DMVを実現する意味はあるか。
結論を先に書くと、DMVの意味は観光資源であり「面白い乗りもの」を前面に出すべきだ。線路と道路をシームレスにするというと、とても便利な乗りものに思える。しかし、本当に便利だろうか。地域の交通手段として考えるなら、全区間バス路線の方が便利ではないか。DMVに懐疑的、否定的な人々はこう考えるだろう。その通りだ。DMVは他のシームレス交通とは違う。便利そうに見えて、実はもっと便利な手段より劣る。そこに戸惑いを感じる。実はDMV導入協議会の参加者たちも、内心そう思っているかもしれない。
シームレスな交通手段を挙げると、便利な事例ばかりだ。例えば、郊外の鉄道と地下鉄の相互直通運転。鉄道同士だけど、地下鉄と私鉄やJRを乗り換えるより、乗ったまま移動できて便利だ。異論なかろう。路面電車と郊外鉄道の直通運転もある。福井鉄道や広島電鉄などは、都心部では路面電車、郊外では専用軌道となり直通している。便利だ。
鉄道と船舶のシームレスといえば、かつての青函連絡船が該当する。貨車をそのまま船に乗せて海峡を渡り、また鉄道で進んでいく。鉄道とトラックのシームレス化はスイスに事例がある。ゴッタルドベーストンネルの記事で紹介したように、トラックをそのまま貨車に乗せてスイス国内を通過する。その間、ドライバーは客車で休憩できる。便利だ。
陸海空のシームレス化という意味では、国際規格コンテナがある。船舶も鉄道もトレーラーも、共通規格のコンテナに対応させる。コンテナの積み替えがあるという部分で、完全なシームレスとは言いがたい。しかし荷物の積み替えは不要。コンテナの載せ替え操作も自動化が進む。便利だ。
近未来のシームレス交通は、ハイパーループだ。米企業家のイーロン・マスク氏が構想し、実験が進む高速交通システムである。ドバイで構想されるハイパーループは、ミニバン程度のサイズのオフィス・ポッドが会社からそのままステーションに移動し、ポッドがそのままハイパーループの車両に搭載されて、減圧されたチューブを通って都市間を移動する。ドアtoドアどころか、オフィスtoオフィスを実現する。エレベーターと高速鉄道のシームレス化といっていい。便利だ。
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