徳島県のDMV導入は「おもしろい」で突っ走れ!!:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
JR北海道が開発し実用化できず、あまたのローカル鉄道が手を伸ばして撤退したDMV(デュアル・モード・ビークル)を、徳島県が実用化する。しかし現地に行ってみると「3年後に実現したい」という割には盛り上がっていない。
面白いシームレスもある
シームレス交通は便利だ。しかし、便利だけがシームレスの利点ではない。シームレスは面白い。2つの交通モードが変化して直通するから、それだけで面白い。
面白いシームレス交通は、水陸両用バスだ。かつては軍用として、渡河作戦の兵器として便利だった。次に、陸上交通と海上交通を組み合わせた路線バス的な用途を想定して開発されたと思う。しかし、実用化は観光用途が主である。
1例を挙げると、山中湖の水陸両用バス「KABA」は、湖畔の道路を走行し、山中湖に入って、異なる視点で富士山を眺める。30分のコースで大人2200円、小人1100円。年間10万人、累計60万人が利用した。先月からは東京湾でも運行が始まり、45分で大人3500円、小人1700円。年間6万人を見込む。
どちらも観光地として定着しており、遊覧船、遊覧バスの乗り継ぎでも同じ景色を眺められる。だから「KABA」の存在価値は、まさにモードチェンジ部の面白さに尽きる。
モードチェンジが面白ければ、観光要素として成立する。DMVの成功の脈があるとすればそこだ。徳島県建設技術センターなど、公的機関のDMV関連サイトを見ると、観光資源というだけでは説得力が欠けると思ったか、「高齢者にシームレスな公共交通を提供する」とか「南海トラフ地震で被災を逃れた線路と道路をつないで走行できる」などのメリットを挙げている。
しかし、高齢者にとっては低床バスで目的地まで行けた方がシームレスだし、防災面の説明も弱い。「線路と道路、どちらか残っていれば、どっちも走れて便利」では刹那的すぎる。もし防災面を強調したいなら、DMVによる災害時の輸送ルートを策定し、「ある区間は鉄道をしっかり維持し、ある区間は道路をきちんと管理する。被災したらまずかけつけて、DMVの道を確保する。ここまで踏み込んだ方がいい。
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