徳島県のDMV導入は「おもしろい」で突っ走れ!!:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
JR北海道が開発し実用化できず、あまたのローカル鉄道が手を伸ばして撤退したDMV(デュアル・モード・ビークル)を、徳島県が実用化する。しかし現地に行ってみると「3年後に実現したい」という割には盛り上がっていない。
売れる商品は「便利」「面白い」だけ
「面白い」の追求をためらう必要はない。なぜなら、この世の中で、売れる商品、サービスは「便利」または「面白い」または「その両方」を備えたものだけだからだ。出版業界でいうと「少年ジャンプ」は「面白い」の代表だ。便利だから売れているわけではない。便利で売れている代表は「時刻表」だ。時刻表を面白がる人は私も含めて存在するけれども、本来は列車の時刻、料金を調べるために便利だから売れている。
日本刀はどうか。かつては戦いに便利な道具。しかし現在は芸術品。「面白い」のカテゴリーである。長距離旅客船も、昔は長距離を移動する人に便利だった。しかし航空機に便利面で負けて、現在はクルーズ船である。「面白い」カテゴリーだ。
その延長で考えると、各地で誕生する観光列車は、実用面では役割を追えた鉄道を「面白い」に転じるために作られたと言える。観光列車の勃興、隆盛は、鉄道の衰退の象徴とも言える。
そして、「便利なモノ」は「もっと便利なモノ」に取って代わられる。時刻表はネットの乗り換え検索の普及によって部数を減らしている。かつて輸送の主役だった川船は、沿岸を行く鉄道に役割を渡した。その鉄道もマイカーとトラックの便利さにかなわない。
しかし「面白いもの」は、「もっと面白いもの」と共存できる。「便利」から「面白いもの」に昇華したものは強い生命力を持っている。北海道の日高本線のDMV計画は「便利」にしようと考えているからうまくいかない。もともと便利ではない乗りものを、無理やり便利に使おうとしている。「面白いもの」として運用する状況にない。日高地域で「面白いもの」を探るなら、馬車鉄道の方がいい。サラブレッド産地という地域性に合致しつつ、観光集客になるはずだ。
阿佐東線のDMVは、赤字体質や、地域の人口減と閉塞感を解決するつもりで手を出した。しかし、「面白い」を追求していい。「面白い」を押し出して実用化し、運用していくうちに「実用性」も見つかるだろう。いち早く実現させて運行のノウハウを蓄積させたい。そして何よりも、地域の人々が関心を持ってくれる。公共交通の存続は「利用しない人がどれだけ関心を持ってくれるか」にかかっている。
その意味で気になることは、徳島の人々のDMVへの関心のなさ。いや、認知度の低さというべきか。講義に出席した100人ほどの学生のうち、DMVを知っている人は10人程度。その夜に行った居酒屋の主人も知らない。話し好きの主人が知らないということは、お客さんの間で話題になってない。徳島駅に「2020年にDMVを」という看板があるかなと思ったら、見当たらなかった。これは寂しい。あと3年で開業させたいという意気込みが、県民に届いていないと思った。
だからDMVは「面白い」を貫くべきだ。臆する必要はない。「面白そうな乗りもの」で、まずは県民の意識を高めてほしい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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