トヨタとパナソニックの提携 ハイブリッドの未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
先週、トヨタとパナソニックが車載用角形電池事業の協業検討開始を発表した。そこにはパナソニックの生き残り戦略が見て取れる。
なぜ角形なのか?
さて技術の話に移ろう。今回の発表でことさらに「角形」が強調されたのはなぜだろうか?
実はパナソニックがこれまでテスラに納入してきた電池は18650と呼ばれる直径18mm、長さ650mmの筒状の汎用バッテリーで、形状としてはほぼ乾電池だ。テスラの場合、これを床下に大量に立てて並べてバッテリーパックとする。並べる本数を変えれば容量は可変にできる。
ある空間に対して、円筒を並べれば必ず無駄な空間ができる。動力用のバッテリーの場合、冷却が必須なので、隙間は冷却用に活用されるとはいうものの、冷却の効率を考えれば、隙間形状が設計の自由度を束縛する。バッテリーのコンパクト化にとっても、冷却性能にとっても足かせになるのは事実である。
一方でバッテリー単体の問題で言えば、乾電池の形状がほぼ円筒形一択であったことからも分かるように、円筒が最も効率が高い。円筒軸に形成される中心電極と、円筒の外壁に形成される側方電極の関係は、どこも幾何的に等距離で無理がない。これを四角くしようとすると対角線上では距離が増え、辺の垂線部分では短くなる。化学変化が均等に起きなくなる可能性が高い。これを構造的に防ぎたければ補機用のバッテリーのように陰極と陽極を交互に配置したミルフィーユ構造にするしかないが、構造が複雑になる分、コストが激増する。
一概にどちらが良いとは言えないが、円筒型を推せばユーザーにとってパッケージ効率の悪いクルマになる。だから形状の方をエンジニアリングでブレークスルーしようというのが今回の取り組みで、体積や重量あたりエネルギー量で化石燃料に対してまったく勝負にならないバッテリーの競争力を少しでも高めようという取り組みだ。
トヨタアライアンスの中で、現在鋭意進行中のEV計画以上に、このバッテリーのコンパクト化が効いてくるのは、既存のエンジン搭載モデルに付与する形で作られるMHVモデルである。クルマのパッケージは既にできており、これに対して、モーターとECU(エンジンコントロールユニット)とバッテリーを追加する形になる。設計の段階で織り込まれていない部品を追加するのであれば小型であるにしくはない。
もちろんスペース効率の向上は大量にバッテリーを搭載するEVにとっても意味は大きい。スペースを先に決めれば航続距離が伸びるし、航続距離を先に決めれば、室内スペースが大きくできる。
当然、希土類や重金属の使用量を減らす努力もなされるだろう。それは資源調達を容易にし、かつ価格低減に有効なだけでなく、使用後のバッテリーのリサイクルコストにも影響してくる。ただバッテリーを作るというだけでなく、そのライフタイムで負担を軽くすることを考えなければ電動化の時代に生き残れない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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