“食べ物付き”情報誌が変えたい「消費者の意識」とは:新編集長が各地で誕生(2/4 ページ)
食べ物が“付録”として付いてくる情報誌「食べる通信」――。生産者の情報を消費者に届けることが目的だ。発起人の高橋博之氏は、なぜこのような取り組みを始めたのか。
課題解決のカギは「消費者の意識」
高橋氏によると、ボランティアをするために津波で被災した東北の生産者(漁師)に会いに行ったことが創刊のきっかけになったという。
「漁師たちから『仮に津波がこなかったとしても、このままでは生きていけなかった。希望を感じられずに漁業を辞めていく人がたくさんいる』という話を聞きました。高齢化が進み後継者がいなければ、いずれ食べ物を作る生産者がいなくなります。まず解決すべき社会課題は『食』なのだと思いました」
とはいえ、減少傾向にある一次産業従事者を増やしていくことは容易ではない。そこで高橋氏は「消費者の意識が変われば、状況は変わるはずだ」と考えた。
「自分が毎日食べている食材の生産者について知っている消費者はほとんどいません。生きていくために食べ物は不可欠であるにもかかわらず、その生産現場の課題については『他人ごと』です。消費者自身が『自分ごと』として捉える意識の変化が必要だと思いました」
「自分たちも何かできることはないか」――と生産現場を支援する消費者を増やしていきたい。その共感力を生み出すためのツールが、生産物と一緒に生産者の情報(生き方)を届ける「東北食べる通信」だった。読んで終わりではなく、購読者はSNSなどでその生産者とつながっていく。
「生産者の顔を知り、関わりを持てば他人ごとではなくなっていきます。例えば台風がきたり、何か困ったことがあったときに助けてくれるようになるわけです」
実際、食べる通信をきっかけに生産者とつながった購読者たちが災害情報を聞き、遠方からボランティアに来てくれた事例もあったという。また、生産者が主催するイベントに参加するなど、生産者との交流も生まれている。
高橋氏は「人口減少社会の中で一次産業従事者を増やしていくことは難しい。しかし、消費者の意識が変わることで生産者を支えていく人口を増やすことはできる」と語る。
「商品を口コミで広めたり、生産者のイベントに参加したり、食材を定期購入したり――。小さな事かもしれませんが、それぞれの消費者ができる範囲の中で、生産者を支援していくことが大切なのです。そんな消費者が増えていけば、状況は少しずつ良くなっていくはずです」
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