世間から「黙殺」される無名候補の生き様が、勇気をくれる:「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」
選挙でほとんど報じられない無名候補者を20年取材してきた畠山理仁氏の著書「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」。「変わり者」と受け止められがちな候補者たちの生き方を知ると、「自分も頑張ろう」と思えてくる。
小池百合子氏が当選した2016年7月の東京都知事選。何人の候補者が選挙戦を戦ったか、覚えているだろうか?
答えは21人だ。「そんなにいたかな?」と思うかもしれない。それもそのはず。主要3候補と言われた小池氏、増田寛也氏、鳥越俊太郎氏以外の候補者については、ほとんど報じられていない。他の18人が何を訴え、どう活動してきたのか、知る機会は非常に限られていた。
いわゆる「泡沫候補」と呼ばれる立候補者を20年にわたり取材してきたのが、フリーランスライター、畠山理仁氏だ。畠山氏は無名候補たちを、侮蔑のニュアンスを含む「泡沫候補」ではなく、組織に頼らず独自の戦いをする「無頼系独立候補」と呼ぶ。17年末に刊行した著書「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」(集英社、税別1600円)には、彼らの生き様と社会に対する「叫び」が詰まっている。第15回開高健ノンフィクション賞(17年)受賞作品。
なぜ踊るのか
本書の3分の1を占めているのが、マック赤坂氏に関する記述だ。マック氏といえば、奇抜な衣装を身にまとい、街頭演説や政見放送でなぜか踊る……という程度の認識の人が多いだろう。では、なぜ踊っているのか。考えてみたことはあるだろうか。
マック氏も、当初から奇抜な選挙活動をしていたわけではなかった。07年の初めての選挙では、他の候補者と同じようなスタイルで自らの政策を訴えたが、惨敗。無名候補には票が入らない現実を突きつけられた。どんなに政策を訴えても、メディアは報じない。そして、有権者の多くはそのことに無関心だ。「笑うことで幸せになる」スマイルセラピーを政治に取り入れるという主張を伝えるため、均等の機会が与えられる政見放送を最大限に活用しているのだ。当選経験はなく、その方法が結果につながっているとはいえない。しかし、インターネット上で毎回話題になり、選挙の報じられていない側面に目を向ける人を増やしたのではないだろうか。
特異な選挙活動を行う候補者たちの行動に、畠山氏自身が翻弄(ほんろう)される姿も描かれ、その困惑は読者にも伝わってくる。しかし、話を聞くとその印象は変わる。たくさんの政策を練っていたり、政治に対する憤りを持っていたりと、「何かを訴えたい、伝えたい」という気持ちがとても強い。
そもそも、選挙に出ることは、一般市民にとって簡単なことではない。大きなハードルは高額な供託金を収める必要があること。衆参両院の選挙区や都道府県知事選は300万円、政令指定都市の首長選は240万円などといった金額を事前に払う必要があり、当選するか、一定の票数を取らないと返還されない。また、家族など周囲の人の理解を得られないケースも多い。さまざまなハードルを乗り越えた人が立候補までこぎつけているのだ。
16年の都知事選において、政見放送で放送禁止用語を連発した後藤輝樹氏が語ったという言葉にはハッとさせられる。本書が教えてくれるのは、「なぜ、選挙に出るのか」ということだけではない。「私たちはなぜ、選挙に出ないのか」という問いを投げかけている。
無名の候補者たちは「変わり者」「目立ちたがり屋」などとと思われているが、その生き方や考えに触れると、不思議と「自分も頑張ろう」と思えてくる。
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