“耳で読む本”「オーディオブック」が急成長した理由:目が不自由な人にも本を届けたい(1/3 ページ)
“耳で読む本”が人気だ。オーディオブックコンテンツを配信するサービス「FeBe」の会員数は、12年が約7万5000人、15年が約15万人、18年が30万人と急成長している。その理由とは。
“耳で読む本”「オーディオブック」が人気だ。
オーディオブックとは、本を朗読した音声コンテンツ。オトバンクが2007年にスタートしたオーディオブックコンテンツを配信するサービス「FeBe」(フィービー)の会員数は、12年が約7万5000人、15年が約15万人、18年が約30万人と急成長している。特に近年の伸び率が高くなっており、17年の新規登録者数は前年比で3倍となった。
「FeBe」が配信するコンテンツ数は2万本を超える。ダウンロードランキングを見ると、ベストセラー本『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)や、17年のビジネス書単行本ランキング1位(トーハン調べ)の『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)などが上位に挙がっている。書店で人気の本を紙ではなく、耳で読むユーザーが増えている。
提供元のオトバンクは04年創業。創業者の上田渉会長は「創業当時、米国ではオーディオブックの市場が拡大していましたが、日本ではほとんど普及していませんでした」と話す。
日本では根付いていなかったオーディオブックの市場をどのようにして成長させたのだろうか。上田渉会長(以下、敬称略)に話を聞いた。
起業のきっかけは祖父の病気
――オトバンクを立ち上げた背景について教えてください。
上田: オトバンクを立ち上げるきっかけとなったのは、緑内障を患っていた祖父の存在です。ほとんど目が見えない状態で、印象に残っているのはテレビの近くに座ってスポーツ中継を聞いている姿でした。
祖父はもともと読書家で、書斎には大量の本があります。その書斎には巨大な虫眼鏡が置かれていました。徐々に目が見えなくなってきている自分と戦った苦心の跡を見た時、幼かった私は「何とかしてあげたい」と強く感じました。この時の体験がオトバンク創業の原点になっています。
大学3年生の就職活動の時期に「祖父のように目が見えない人の役に立ちたい」と考え、本を朗読するサービスを作ろうと考えました。市場調査をして初めて分かったのですが、その当時、日本では(朗読サービスなどによって)本を耳で読む文化がほとんどなかったのです。
対面朗読のボランティアなどはあったのですが、認知度が低いためあまり知られていない。私の祖父も知らずに亡くなってしまいました。
視覚障害者の身の回りの人が知らなければ、当然本人にも情報が届きません。オーディオブックのサービスを届けるためには、まず(身内などの)目が見える人への認知度を高めていかなければならないと思いました。
これが、オトバンクがオーディオブックの普及を目指す理由です。
――就職活動はせずに、自分でやろうと考えたわけですね。
上田: いえ。最初は出版社に就職して朗読CDの事業をやろうと考えてました。しかし、面接の場でこの話をしたとき、想像以上に難しいということが分かりました。実は一部の出版社では過去にオーディオブック事業を展開していたのです。米国では既に普及していて、市場規模が拡大している領域でしたからね。
日本ではソニーの「ウォークマン」が普及した80年代の頃に、カセットテープに朗読音声を収録したオーディオブック(当時はカセットブックと呼ばれていた)を書店で販売していたそうです。
しかしその後、ほとんどの会社がオーディオブック事業から撤退しました。なぜかというと……。
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