“耳で読む本”「オーディオブック」が急成長した理由:目が不自由な人にも本を届けたい(2/3 ページ)
“耳で読む本”が人気だ。オーディオブックコンテンツを配信するサービス「FeBe」の会員数は、12年が約7万5000人、15年が約15万人、18年が30万人と急成長している。その理由とは。
「技術が進化した今ならいける!」
上田: まず、日本と米国では市場環境が異なりました。日本は電車通勤社会ですが、米国はクルマ社会。長距離を運転する人は、車内でゆっくりオーディオブックを聞くことができます。
また、当時のカセットテープでは1本に40分程度しか収録できないため、1冊分(5〜6時間)を聞こうとすると、大量のカセットテープが必要になります。クルマなら助手席に置いていれば良いけれど、電車通勤ではそんなに持ち運べない。つまり日本では、かなり使い勝手が悪かったのです。
また、価格の問題もあります。カセットテープ本体のコストも掛かるため、1冊分で3000円くらいしました。本より高い値段になってしまったので、誰も買いませんでした。
こうした理由で、当時は普及しなかったのです。
――日本ではなかなか普及しなかったオーディオブック事業を自分で始めたわけですが、オトバンクはなぜうまくいったのでしょうか?
上田: 1つは、テクノロジーの発達で利便性が高まったことです。CDの他に、MDプレイヤー、MP3プレイヤー、そしてiPodも出てきました。通勤中でも手軽に聞けるようになったわけです。
その中でも、携帯電話の存在が大きかったです。当社は主に携帯電話からオーディオブックコンテンツをダウンロードして「着うた」のように聞けるようにしました。当時から「これから先、携帯電話はもっと進化する」と考えていましたので。
実際その後、スマートフォンが普及し、それに合わせてオーディオブックのユーザーも一気に増えました。また、価格については「本と同じ値段なら買う」という人が多かったので、本よりも高くならないように設定。自社でスタジオを持ち、全て内製化して制作コストを抑えたことで、ニーズに合った価格で提供することができました。
――なるほど。起業してすぐに軌道に乗ったのでしょうか。
上田: 全く認知度のないところからのスタートですので、もちろん大変でした。出版社が出版した本の内容をオーディオブック化し、売れた分の一部を出版社や著者に還元するというビジネスモデルでしたが、出版社に話をしに行ってもなかなか相手にされず……。それでも諦めずに何度も営業をしていくなかで、協力してくれる出版社を徐々に見つけていきました。
ある程度コンテンツが増えないとユーザーを獲得できませんので、立ち上げてから約3年くらいは出版社との関係を構築することに注力しました。
その後、サービスを07年にリリース。結果的には会社設立から5年ほどで黒字化できました。最近は、スマホの普及やコンテンツ数の増加により、会員数の伸び率も大きいです。17年の新規登録者数は前年比で3倍に伸びています。
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