アルファード/ヴェルファイアの深い悩み:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタの中でも屈指の「売れるクルマ」であるアルファード/ヴェルファイアがマイナーチェンジした。その中身はどうなっているのか。実際に乗ってみるとさまざまなことが浮き彫りになってきた。
例によって長話なので、気長に読んでいただきたい。まずはパッケージだ。クルマのシートの座面というのは、後ろにいくほど高くなるのがセオリーだ。これをシアター配列と言う。それは前方視界が後席パッセンジャーの開放感に直結するためで、後ろにいくほど座面が下がると、穴蔵に押し込められたようになる。だから後席を優先とするなら、運転席の座面は低く設定したいのだ。
ところが、アルファード/ヴェルファイアは今過渡期にある。オーナードライバーが自ら運転するクルマから、後席にオーナーが座って運転手に運転を任せるショーファー・ドリブン・カーへと徐々に移行しつつあるのだ。はっきりと後席優先にしきれないジレンマを抱えている。
自ら運転する人からは「運転席からの見下ろし感が嬉しい」という声があるらしい。周囲のクルマがセダンであればそれが高級車であろうとも、高所から睥睨するのが満足感につながるのだそうだ。そういうはしたない発言をするオーナーがいるからアルファード/ヴェルファイアのイメージが何ともなことになっているのだが。
さて睥睨したいとなれば、1列目のシートは高くしなくてはいけない。当然そうなれば2列目、3列目はそれより高くということになる。これをやると不都合が出てくる。2列目シートがどうしたって床に対して座面が高くなる。学校の椅子のような座り方だ。思い出してほしいのだが、ソファの座面は低く、学校の椅子の座面は高い。運転手を雇って踏ん反り返るための2列目キャプテンシートであるにもかかわらず、背筋を伸ばしてお行儀よく座る姿勢になってしまう。
このクルマの2列目シートは、床に対してもっと座面を低く、そして座面の前上がり角を大きく取るべきだ。それは豪華なオットマンを付けるより優先すべきことだろう。座面が水平だとちょっと強めのブレーキを掛けただけで、体が前へ滑り、足を突っ張って支えなくてはならなくなる。しかもこのクルマをそういう風に使う人がモケットシートを選ぶはずはなく、最低でも合皮、多くは本革シートだから余計滑る。
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