デジタル化は社会にとって脅威か?:慶應義塾大学大学院・岸博幸教授が語る(1/3 ページ)
日本政府が推進する第4次産業革命。ここでのキーワードの1つが「デジタル化」だが、それは産業や社会にどういったインパクトを与えるのだろうか。元官僚で、慶應義塾大学大学院の岸博幸教授に話を聞いた。
「今、第4次産業革命がしきりに叫ばれていますが、20年ほど前と状況はあまり変わっていません」
こう語るのは、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科の岸博幸教授だ。岸教授は1986年に通商産業省(現・経済産業省)に入り、産業政策やIT政策などを担当。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。2000年に内閣府に設置された「IT戦略本部」にも深く関わり、中心的な役割を果たした。
IT戦略本部が立ち上げられた背景として、当時、海外と比べて日本のIT化が遅れていて、とりわけ地方や中小企業ではそれが著しいため、ITを導入して生産性を高めていこうというのが大きな目的だった。しかし、第4次産業革命で議論されていることもほぼ同じだという。
「大企業や都市部はそれなりにIT導入が進みましたが、中小企業や地方はどうでしょうか? 電子政府などは典型的で、地方自治体ではほとんどできていません。以前とドラスティックに状況が変わらない中で、今度は第4次産業革命だというわけです」
一方、大企業では将来的に人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)、ロボットなどを活用して生産性をどんどん高めていくことは間違いない。しかし懸念もあるそうだ。
まずは規制だ。例えば、最先端の技術を使って新ビジネスを創出するような場合、日本では規制が大きなハードルとなる。安倍晋三内閣が規制緩和に向けた改革をどこまで真剣にやるのか不明瞭だという。
もう1つの不安要素は、中小企業だ。作業のロボット化などによって製造業などの業務効率は上がったが、日本経済の大半を占める中小企業、あるいはサービス業ではIT活用がいまだ遅れているので、生産性向上には結び付いていない。
「中小企業は家族経営も多いし、事業資金の限界もあります。いくら政府が『生産性革命』の旗を振っても末端のレベルまで浸透していないのは事実ですし、これからどう推進するのかという具体論もありません」と岸教授は指摘する。
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