デジタル化は社会にとって脅威か?:慶應義塾大学大学院・岸博幸教授が語る(2/3 ページ)
日本政府が推進する第4次産業革命。ここでのキーワードの1つが「デジタル化」だが、それは産業や社会にどういったインパクトを与えるのだろうか。元官僚で、慶應義塾大学大学院の岸博幸教授に話を聞いた。
スマホ中毒で生産性が低下
生産性をアップする手段としてAIやロボットが注目されているが、やはり人間の働きも大切である。機械によって仕事がなくなるという危機感があるからこそ、人間も活躍しなければならない。しかしながら近年、人間そのものの生産性が大きく低下しているのではないかと岸教授は警鐘を鳴らす。
その原因はスマートフォン中毒やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)中毒にあるという。
「例えば、スマホを脇に置いて読書するとしましょう。すると、スマホが気になるので、本を1時間も続けて読めない人が多いのです。明らかに集中力が低下しています。クルマを運転していても、車間距離のとり方が異常なドライバーが目立ちます。運転中にスマホを見ている人も多いし、瞬時に能動的な判断ができないので、必要以上に車間距離を開けて運転してしまうのでしょう」
そういう人たちが果たして機械に負けないレベルにまで生産性を上げることができるのだろうか。ソーシャル中毒によってIQ(知能指数)が下がるという論文も出ているそうだ。
ただ一方で、世の中がこういう状況であれば、少しまともにやれば勝てるようになるという。岸教授は、人間が生産性を高めるにはクリエイティビティとホスピタリティが重要で、できれば双方を持つことが好ましく、ここに問題意識を持って取り組むことが、デジタル時代の人間に大切なことだと主張する。
「スマホやSNSを全面否定するわけではありません。情報をすぐに調べられるし、マルチタスクでさまざまな作業を処理するのも可能です。けれども、本を読むなど、自分で深く物事を考えることで、クリエイティビティは初めて身に付きます。問題を与えられるとネットで調べる若者は多いですが、そこに載っている課題解決方法はステレオタイプなものばかりです。頭を使い、他人とは違った視点を持つほうが今後有利なのは間違いないです。デジタル時代こそアナログ的な思考がないとダメでしょうね」
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