セブンの「時差通勤制度」に見る、働き方改革の“限界”:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
セブン&アイ・ホールディングスが時差通勤制度を導入する。評価すべき取り組みだが、一方で、一律の時間枠で社員を拘束する点においては、何も変わっていないと解釈することもできる。同社の取り組みが現実的なものであるが故に、多様な働き方を実現することの難しさが浮き彫りになっている。
社員の自主性に任せられない最大の理由
日本企業が、社員に仕事を任せられないのは、組織としてそのような体制になっていないからである。日本企業では、仕事に関する権限が曖昧になっていることが多く、社員が顔を合わせていないと業務に対応できない。
いわゆる日本型の職場環境は文化の問題として捉えられることも少なくないが、実際は違う。日本型の職場環境を形作っている最大の要因は、終身雇用制度と年功序列を基本とした社員の処遇にある。
多用な働き方を実現するためには、チームの責任者がしっかりとした権限を持つことが極めて重要となる。責任者に適切な権限が与えられていなければ、在宅勤務者や成果が見えにくい業務を行っている社員を適切に管理することはできない。
また、多様な働き方を前提とした場合、読んで字のごとく、社員の働き方は千差万別になる。こうした状況では、完璧な答は存在せず、責任者のマネジメント能力に依存することになる。
マネジャーの能力や、それぞれのマネジメントスタイルに対して、合う、合わないといった問題もあり、必要に応じて「配置換え」をしたり、「転職」することが一般的にならないと、社会全体として適材適所を実現することは難しい。
雇用の流動性が少なく、年齢によってあてがうポストが決まってくる現行の制度は、こうしたマネジメントスタイルと極めて相性が悪いのだ。
セブン&アイ・ホールディングスによる今回の仕組みは、やらないよりはずっとよいだろうが、働き方改革に対する抜本的な答にはなりにくい。働き方改革は、雇用制度そのものの問題と直結しており、最終的にはこのテーマを避けて通れないのが現実である。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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