トヨタが説明会や発表会を連発する理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
他の自動車メーカーが決算期を控えてすっかり大人しくなっている中で、トヨタ自動車だけがものすごい勢いで説明会や取材会を開催している。一体何が起きているのか?
ここのところ、トヨタ自動車は矢継ぎ早に新戦略を打ち出し続けている。おかげでこの連載もすっかりトヨタの記事が多くなっている。他のメーカーが、決算期を控えてすっかり大人しくなっている中で、トヨタだけがものすごい勢いで説明会や取材会を開催するためだ。一体何が起きているのか?
18年のCESで発表されたモビリティサービス専用EVコンセプトカー“e-Palette Concept”。自動運転の箱形スペースを提供し、あらゆる事業者がそれを用いてさまざまなビジネスを構築できる。ライド&カーシェアはもちろん、移動販売車や宿泊、飲食、物流など、事業者のアイデア次第。例えばピザの宅配に採用すれば、窯を搭載して注文者の自宅前で焼き上げてお届けすることも可能になるだろう
ペースがちょっと異様なだけでなく、EV(電気自動車)の新体制の発表をしたかと思えば、ハイブリッドの技術説明、コンベンショナルな内燃機関の新技術、加えて個別の車種の発表や試乗会と目まぐるしい。事情を知らないと無節操にあれもこれも手を出して方向性が定まらず混乱しているように見えるだろう。
実は、トヨタは「選択と集中」戦略を採らない。「内燃機関 or EV」あるいは「EV or ハイブリッド」のどちらに賭けるかではなく、可能性のある全方位の技術に徹底した物量戦略で臨み、その一切を取りこぼさない。それらすべてに対して技術説明が行われるからこういうことになる。
TNGAの過去と未来
さて、トヨタの全方位戦略を理解した上で、現在の同社の動きには大きく分けて2つの原点がある。
1つは、トヨタ自身の構造改革であるTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アキーテクチャー)だ。2007年に空前の2兆2700億円の営業利益を出した翌年、トヨタはリーマンショックで大赤字に転落した。営業利益マイナス4600億円、経常利益マイナス5600億円、純利益マイナス4370億円とその赤字幅は並の企業なら即死するほどに衝撃的なものだったのだ。
この結果はトヨタにとって屈辱的だっただけでなく、研究開発費の欠乏という長期的ダメージを与えた。たとえV字回復をしてみせても、研究開発の足踏みとは本質的に時間の喪失であり、後にペースを挽回しても過去に戻って時間を取り戻すことは決してできない。これが尾を引いたことで、トヨタは独フォルクスワーゲンにトップの座を奪われた。
それが骨身にしみたトヨタは、以後競争力の源泉である研究開発費1兆円は何としても死守する決意を固めた。そのためにトヨタは捲土重来を期して改革を始めた。それはどんな経済ショック下でも確実に利益を出せる体質への改善だ。リーマンショック以降、水面下で改革を進めていたトヨタがTNGAを初めて対外的にアナウンスしたのは15年3月のことだった。
TNGAの下、すべての業務が改善された。文字通り聖域なき構造改革である。以下に列挙してみる。
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