トヨタが説明会や発表会を連発する理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
他の自動車メーカーが決算期を控えてすっかり大人しくなっている中で、トヨタ自動車だけがものすごい勢いで説明会や取材会を開催している。一体何が起きているのか?
トヨタのオープン化と「オールジャパン」
TNGAに次ぐもう1つの取り組みは「オールジャパン」である。トヨタは、ここ数年で巨大アライアンスを構築した。従来から子会社であったダイハツを100%子会社化し、スバル、マツダ、スズキと、国内メーカーの過半を巻き込んだオールジャパン連合となりつつある。一方で、自動車以外に目を移せば、デンソー、パナソニック、マイクロソフト、Uber、Amazonと従来にない業態のビジネスと新たに事業協力関係を構築し、次々と提携をまとめ続けている。
トヨタは今、クルマを軸にさまざまな事業を展開中だ。写真のKIROBO miniは現在のところ、ソニーのAIBOのようなコミュニケーションパートナーだが、将来はAmazonのAlexaのような家庭用のAI端末になっていくだろう。そうなれば、KIROBO miniはスマホのスケジュールをクルマに伝達し、オーナーが今日どこへ出掛けるかはあらかじめクルマが知っている。カーナビがセットされ、外気温に基づいてエアコンが調整される。クルマそのものの異常やメインテナンスの情報もネットを経由してオーナーとディーラーに共有され、必要があれば近くのディーラーからメッセージが入る。そんな未来のために必要な家庭用端末になっていくと考えられる
もちろんそれには多くのメリットがある。まずはEVの話から説明するのが早いだろう。EVは極めて特殊な商品だ。それは市場から求められた結果生産するのではなく、いくつかの国々が法律で生産比率を義務付けたから作らなくてはならない商品なのだ。
トヨタは北米で約284万台のクルマを販売している。北米のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)ルールに則れば、18年、トヨタはこのうち2%のクルマをEVか燃料電池車(FCV)にしなくてはならない。つまり約5万7000台を売らなくてはならないわけだ。厳密に言えばZEVは米国全州規制ではないが、既に11州で採用され、今後も拡大されることはほぼ確実視されている上、19年には2%から4%へ、20年には6%へと、年を追うごとに引き上げられ、25年にはそれが16%に達する。5万台や6万台は売り切らなければ話にならない。
以前トヨタの「電動化プログラム説明会」で、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者が「米国のトヨタ・ディーラーでEVが買える日はいつ来るのか?」と質問した。これに答えたトヨタの寺師茂樹副社長は「広報的には商品計画についてはお答えできません、という答えになるんですけれど、反対に質問したいのですが、米国のユーザーはいつになったらEVを買おうかと、トラックを止めてEVにいこうかという雰囲気になるのでしょうか?」と返した。
このやり取りには背景があって、そもそも米国全土で販売されたすべてのメーカーのEVの総計が16年度実績で8万5000台しかない。ZEVの義務規定を真に受けるならトヨタは現状ゼロの状況からいきなりシェア率67%を取らなくてはならない。
いくら政府が「ああしろ、こうしろ」と言ったところで、マーケットはその通りには決してならない。そんなことになるのならトランプ大統領が文句を言った途端、日本の道路がアメ車が溢れかえるはずである。同じように販売義務を課したところで売れないものは売れない。それが自由経済の大原則である。
つまり、EVの最大の問題は、現実面の需要そのものが小さいにもかかわらず、販売台数の義務付けだけが先走っている点にある。となれば、自動車メーカーの取れる戦略はただ1つ。売らなくてはならない台数を利益度外視で叩き売る以外にない。多くの人は理解していないが、北米でも中国でもEVは大損確定の貧乏くじであり、ルールがその貧乏くじを引かなければならない決まりだから、仕方なく引くだけだ。
わざわざ新規にEVを設計し、生産し、叩き売る。馬鹿馬鹿しいビジネスである。こういう損の確定したビジネスを皆でリスクを割り勘にすることで被害を最小限にとどめようとする流れが、トヨタアライアンスの目的の1つだ。
もちろん、それぞれの得意分野を生かした相互提携の意味もあり、現実にダイハツやスズキの新興国モデル開発と販売、マツダのモデルベース開発とコモンアーキテクチャなど、トヨタとしても学ぶべき点は多く、そうしたアライアンス各社に対して専横的な支配ではなく、互恵的で敬意あるアライアンスの組み方をトヨタは意図的に進めている。
例えば、先日パナソニックとの提携で開発が発表された角形汎用電池についても、トヨタやアライアンス各社のみならず、採用を希望するメーカーがあれば、技術を供与することも検討するといった具合で、今、トヨタの事業戦略はオープン化が急速に進んでいるのだ。
自動車のみならず、さまざまなプレイヤーが参加し得る今後の業務提携では、同業者以上に互いの企業文化を尊重することなしに立ちいかないだろう。
急激に速度を高めつつあるトヨタは既にかつてのトヨタとは違うし、これからますます変わっていくだろう。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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