経産省のIoTプロジェクトが地方の本気を引き出しているワケ:74地域で稼働中(2/2 ページ)
「地方の覚悟を問う」。そんな思いが込められた経済産業省のあるプロジェクトが今、広がりを見せており、具体的な成果が全国各地で表れ始めているという。
宮城県仙台市もIoT推進に取り組む自治体の1つだ。ここでは気仙沼市における水産業の課題解決に先端技術を生かそうとしている。
具体的には民間企業数社と仙台市、東北大学 情報知能システム研究センター(IIS研究センター)の産官学連携によって、タラの超音波エコー画像からオス、メスを判別する機器を開発した。タラは外観から性別を判断するのが難しく、手を体内に突っ込んで、卵を取り出して判断(オスは白子、メスは魚卵)するような方法しかなかった。当然、品質に影響が出るため商品価値が下がってしまう。そこで多くの場合、かごの中に水揚げされたタラはオスかメスか分からないまま出荷されていたという。
「白子を持っているオスの値段が高いのですが、オスだと思って買ったらメスだったというミスマッチはよく起きるそうです。ただ、これは漁協の世界では半ば常識とされていました」と大西氏は説明する。しかしこれだと顧客が不利益を被ることになってしまう。今回開発された機器によってこうした課題が改善され、水産業関係者への収益貢献、さらには消費者の満足度につながるはずだと考えている。
ところで、IoT推進ラボの主体は仙台市なのに、なぜ気仙沼市の支援なのか。大西氏によると、仙台市は宮城県全体の商品の集積地であり、消費地であるため、周辺の地域が活気付かなければ、仙台市も発展しないという発想だという。「震災の傷跡はまだ残るこの地域に対し、IoTを活用して元気にしていきたいという熱意を感じました」と大西氏は話す。
そのほか石川県加賀市ではプログラミング教育などによるIT人材育成を、神奈川県の湘南地域では藤沢市や慶應義塾大学SFC研究所などが協力してIoTを活用した清掃車によるゴミ・資源回収の効率化などを実証実験している。
これらは全国のIoT推進ラボの中で進んだ事例であるが、他の地域でも小さな火が灯り出しているという。
行政こそ現場を知れ
大西氏は途中からこの地方版IoT推進ラボに携わっているが、地方に対する思い入れは強い。仕事に関係なく、できる限り地方を回り、その現場を知ろうとしているのだ。全国のNPOとの付き合いも長く、深いという。
「地方に行くと、役所としての覚悟を問われるのです」。こう大西氏は漏らす。
あるとき地方の人と話していて、農業について聞かれたので、「それは農林水産省の所管ですね」と言うと、「何を言ってるんだ。お前、役人だろ。役に立つ人じゃないのか」と叱責されたという。そこで自分の専門分野以外のいろいろなことを勉強するだけでなく、何よりもまずは現場を見るのが行政にとって大切だと感じ、土日を惜しまずプライベートでも地方に足を運び、現場の声を聞くようにしている。
地方と国がお互いに覚悟を持って臨む。この緊張関係がなくては、新たなビジネスなど創造できないだろう。デジタルで世の中を変革するための場作りとして、IoT推進ラボの今後の進展に注目したい。
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