新幹線台車亀裂、川崎重工だけの過失だろうか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
山陽新幹線で異臭を発した「のぞみ34号」について、東海道新幹線名古屋駅で台車に傷が見つかった。JR西日本の危機認識、川崎重工の製造工程のミス、そして、日本車輌製台車からも傷が見つかった。それぞれ改善すべき問題があるけれども、もう1つ重大な問題が見過ごされている。「納品検査」だ。
傷のある製品をなぜ出荷、納品できたか
見過ごされている問題の2つ目は、製品の出荷検査、納品検収だ。3月14日の中日新聞「のぞみ亀裂、日本車両製台車にも傷 川重製と同型4台」によると、JR東海の超音波検査で、亀裂の起点とされている溶接部の傷が日本車輌製の台車でも見つかった。このニュースは時事通信が配信し、テレビニュースなどでも報じられた。
この亀裂はJR東海が2月に実施した超音波検査で発見した。溶接部に最大3ミリ。目視点検では見つけられないレベルだったという。念のため超音波検査をしたのか。よくやった! と言いたいところだけど、モノづくりの現場にいる人たちには違和感のある報道だ。
なぜなら、「製造時の傷は、出荷時に見つけられなかったのか」「納品時の検収では、その超音波検査を実施していなかったのか」と考えるからだ。納品されてから「超音波検査で製造時の傷を発見」は遅すぎる。
これは、車両メーカーと鉄道会社の取引だけの問題ではない。川崎重工の報道資料には、該当する側梁部品は外注品だったとある。つまり、川崎重工と外注先の問題でもある。
川崎重工の報道資料によると「削った理由は、側梁の構成部品の曲げ角度が十分ではなかったから」とある。側梁は「コ」の字の鋼材を向かい合わせて溶接する。「コ」の字を「ロ」の字にして、下側に部品をつける。だから「コ」の字を90度にしっかり曲げなくてはいけない。しかし、曲げ工程ではスプリングバックという反力があって、反り返ろうとする。これをきちんと解決しなくてはいけない。
台車メーカーでもある新日鐵住金は、自動車鋼板について正確に折り曲げる「ホットスタンプ(熱間プレス)」という技術を持っている(新日鐵住金Webサイト内の技術解説)。川崎重工のサイトにはこのような技術解説ページを見つけられなかった。こうした技術を持っていないから外注している、と推察する。
川崎重工は同じ報道資料の中で、今後は外注部品の品質管理を見直すと表明している。つまり、納品検査の甘さは2カ所あった。川崎重工と外注部品メーカー、川崎重工とJR東海だ。そして、そもそも川崎重工が納品された部品をしっかりチェックしていれば、常識外れの「削り作業」の必要はなかった。
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