地方ドラッグストアの戦略がマス広告を遺物にする?:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
地方のドラッグストアチェーンがベンチャー企業と始めた、ある取り組みに注目している。これは従来のマス広告や広告業界に大きな影響を与える可能性を秘めているのではなかろうか。
健康データは宝の山
「医療系ベンチャーのセルスペクト(盛岡市)とドラッグストアチェーンの薬王堂は健康とIT(情報技術)を組み合わせた事業に乗り出す。無料の健康チェックで得られる健康情報と消費行動情報を統合したビッグデータを分析し、自治体や企業に提供、健康寿命の延伸や医療費削減に活用してもらう。2018年春にデータの提供を始める」(日本経済新聞 17年10月17日)
この記事が出て、その後、18年1月には、薬王堂のプレスリリースにその詳細が発表されている。その概要は、医療機器ベンチャー、セルスペクトが開発した健康チェック機器を、東北を地盤とする地方ドラッグストア薬王堂の店舗に無償提供し、8項目(血糖、脂質、肝機能、口内環境、肌状態など)に関する健康チェックを店頭で来店客向けに無料で提供するというものである。
こうして集めたデータは、健康管理や健康増進サポートを行うことで、地域住民の健康意識を高め、食事や運動などの行動変容を促すことで、生活習慣病などの未然防止につなげていく、というものだ。なるほど、これからの高齢化社会にとって求められる取り組みだとうなずけるが、無償提供でどうして持続可能なのかと一見不思議に見える。
実はこのビジネスモデルもフリーミアムの一種で、その先があるのだ。こうして得られたデータは、ドラッグストアの来店客個人IDにひも付いた健康データとして蓄積され、ドラッグストアの購買履歴データとリンクさせることによって、付加価値を生むビッグデータビジネスとなっているのである。もう少し説明しよう。
ドラッグストアには、元々ポイントカードを軸とした購買ビッグデータを蓄積する仕組みがあり、個人別にどんな商品を買っていたかというデータは蓄積されていた。しかし、これまで個人属性と購買履歴から、おすすめのクーポンを発券してレコメンドしたり、ダイレクトメール(DM)を打ってその個人が興味を示しそうなキャンペーンを案内して来店誘致したりするくらいにしか使われていなかった。結局、個人属性+ドラッグストア1社の購買履歴データを1社の予算をかけて分析しても大したことはできないというのがこれまでの現実だった。
ただ、健康チェックを定期的に実施する顧客の健康履歴と購買履歴が、時系列に蓄積することが可能になれば話は変わる。例えば、あるトクホ製品を継続的に購入している人の健康データが改善しているか、まったく影響がないか、といったことの検証ができたりするとなれば、こうしたデータを欲しい企業はいくらでもいるだろう。健康データと組み合わさった購買データは、使いようによっては無限の価値があると言ってもいい。
セルスペクトと薬王堂のチームは、健康データ付きの購買データを、ドラッグストア関連商品のメーカーに提供することで、マネタイズする(検査にかかるコストをメーカーに負担させる)いうモデルを作ろうとしているのである(詳細は薬王堂プレスリリースを参照のこと)。
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