地方ドラッグストアの戦略がマス広告を遺物にする?:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
地方のドラッグストアチェーンがベンチャー企業と始めた、ある取り組みに注目している。これは従来のマス広告や広告業界に大きな影響を与える可能性を秘めているのではなかろうか。
このビジネスモデルは、薬王堂1社、岩手県のみでは意味がないため、彼らのプランでは、全国的にドラッグストアの賛同企業を募って、健康データ量を増やして、このビッグデータに分析可能な意味を持たせることを目指しているという。そのためには、他のドラッグストアにとって、これから参加することのメリットがなくてはならないが、この仕組みの場合、ドラッグストアにとってのメリットはかなり大きい。
一義的には、無料で健康チェックができるため、継続的に来店する動機となるという集客面のメリットがあるが、もちろんそれだけではない。これまでの購買データ連携の場合、データプラットフォーマーがデータのすべてを保有し、小売企業側に主導権がない仕組みが一般的だ。今回のモデルの場合、ビッグデータは参加企業で共同利用することになり、かつ、ビッグデータ分析、利活用も共同で実施するため、ドラッグストア各社にとって、これまでのデータ活用とは比較にならない主体的な展望が可能になる。
さらに想像を広げれば、こうしたデータベースが統計的意味を持つ規模にまで達した段階で、健康に関わるあらゆる産業にとっても垂ぜんの情報となる可能性がある。例えば、健康状態の時系列データに、生命保険会社の保有するデータがリンクできたら、保険会社は個人別に細分化された保険料率設定が可能になるかもしれない。
また、医食同源の言葉の通り、食品小売にとってもこうした健康データは極めて関心が高いだろう。来店客(およびその世帯)の健康状態を踏まえた食卓のメニュー提案が可能になるとしたら、このデータベースに参加する企業は少なくないはずだ。仮にこのデータベースの参加者が、さまざまな消費者向け事業者に広がって、自社のビッグデータをリンクさせていったとしたら、このデータベースは消費者の日々の生活の大半を把握できる、これまでには類を見ないビッグデータとなる。Google、Amazon、Facebookに匹敵するようなデータベースプラットフォーマーになるかもしれない、といったら言い過ぎか……。
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