地方ドラッグストアの戦略がマス広告を遺物にする?:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
地方のドラッグストアチェーンがベンチャー企業と始めた、ある取り組みに注目している。これは従来のマス広告や広告業界に大きな影響を与える可能性を秘めているのではなかろうか。
広告宣伝費のあり方を一変
想像が膨らみすぎなのだろうが、こうしたデータベースがもし存在するようになれば、広告宣伝費のあり方もまったく変わってしまうことになるだろう。
これまで主流だったマス広告は、例えばテレビCMにいくらかけたからといって、その効果がどれくらいの売り上げにつながったのか正確に測ることはできないし、ターゲットとなる顧客層に集中的に投下するということも大雑把にしかできない(せいぜい流す時間帯を考えるくらいだ)。
効果検証のできないマス広告の価値は大幅に下がり、またデータベースに参加していない小売チェーン(販促効果の測定ができない小売)への販促費投入も激減することになるだろう。消費者一人一人(もしくは世帯)に合わせたマーケティング(いわゆるOne to Oneマーケティング)がある程度可能になってしまえば、非効率なマス広告は前世紀の遺物と化す。マーケティングの本質的なイノベーションも、技術的にはもう可能になっているのである。
ただ、こうした取り組みが、セルスペクト、薬王堂チームの思惑通りに、ドラッグストアの業界で浸透するかどうかは、まだよく分からない。前述の通り、このモデルの目指す方向は、今後の社会的課題である医療費の抑制につながる社会的意義がある上に、ドラッグストアのビッグデータ利活用の面でも大きなメリットが認められるため、論理的には成功する可能性は高いと思っている。
ただ、ここで懸念すべき点があるとしたら、ドラッグストアの参加者がその利害の対立によって、分裂もしくは瓦解(がかい)してしまう可能性があるということかもしれない。ドラッグストア業界というのは、例えるならば、戦国時代の末期に数カ国にわたって支配権を持った戦国大名のような地域の有力企業同士が、最終局面に向かってせめぎ合っている状況にある。こうしたプラットフォームが一定以上のデータ量を確保できるか否かは、こうした業界大手、地域衆力企業の思惑や、合従連衡の行方に大きく左右される。
この取り組みが成功するか否かは、今後参加するドラッグストアの顔ぶれを見ていくと、ある時期におのずと明らかになるであろう。思わせぶりな言い草だが、これは分かる人には分かることだと思う。
関連記事
- 路面電車を残した地方都市の共通点
クルマ移動が主流となって以降、中心部が空洞化した地方都市は多い。しかし一方で、依然として中心市街地が存在感を維持している街もないわけではない。共通するポイントは「路面電車」の存在である。 - 生鮮も売る「フード&ドラッグ」に地方の可能性を感じた
ドラッグストア業界の動きが目まぐるしい。マツモトキヨシの首位陥落、そしてすぐさまツルハの首位奪取という変動は、業界のシェア競争が終盤戦に入ったことを感じる。そんな中、地方で興味深い業態が目についた。 - 郊外型家電量販店の“空回り”
昨年末、普段はあまり行かない郊外の家電量販店に足を運んでみた。そこで見た店内の風景は、郊外型家電量販店の苦境を改めて感じさせるものだった。 - 巨大ホームセンターから見る地方住宅事情の今後
幅広い商品を取り扱う巨大なホームセンターはその特性から地方都市に数多く存在する。そこから見えてきた地方の住宅事情とは――。 - イトーヨーカ堂の反撃は始まっている
大手GMS(総合スーパー)が軒並み業績不振だ。ただし、各社の置かれた状況は一律ではなく、起死回生の一手となるカードを持つ企業がいるのだ。それはイトーヨーカ堂である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.