なぜ沖縄の離島でデジタル医療改革が進んでいるのか?:人口8000人の町を舞台に(1/4 ページ)
沖縄本島の西方に浮かぶ久米島。人口8000人足らずのこの島で今、デジタル技術を活用した医療改革が行われているのをご存じだろうか?
沖縄・那覇から飛行機で西に約30分。海洋深層水やサンゴ礁をはじめ自然豊かな島として知られる久米島。人口約8000人のこの小さな島で今、デジタル技術を活用した医療改革が行われているのをご存じだろうか。
「久米島デジタルヘルスプロジェクト」と呼ばれるこの取り組みは、久米島町、公立久米島病院、琉球大学医学部、ファイザー、バイエル薬品など、さまざまな企業や団体がこぞって参画している。内閣府の「沖縄離島活性化推進事業」の一環であるこのプロジェクトでは、デジタルヘルスデバイスやビッグデータを活用し、肥満症や糖尿病などの生活習慣病を改善・予防するための実証事業などを行っている。これ自体はよく見聞きするような取り組みであるが、なぜ多くの医療関係者が久米島に注目しているのだろうか。
本プロジェクトにおいてLHR(Lifelong Health Record)と呼ばれる医療情報システム基盤を提供するブルーブックスの志茂英之社長は「久米島はほぼ100%の住民の健康・医療データを網羅している地域であり、全国的にも類を見ません。これが研究者や医薬品メーカーなどにとって大きな魅力のようです」と話す。
実はLHRがこのプロジェクトの肝であるのだが、まずはなぜ久米島がデジタルヘルスプロジェクトの舞台になっているのかを説明しよう。
住民の健康・医療データがない!
久米島をはじめ、離島はさまざまな社会課題を抱える。久米島では多くの若者が高校を卒業して、島から沖縄本島、あるいは県外へ出ていき、そのまま数十年間も帰ってこないケースが多いという。そして、年を取ってから帰島するのだが、いざ病院にかかりだすと、過去の医療データがごそっと抜け落ちてしまっている。それどころか、若いときに住んでいたころの医療データでさえ残っていないそうだ。
住民が仕事などを求めて島外に出て行くのは仕方がないが、住民の健康を守るという点で従来のままでは問題だと久米島町は考え、まずは住民の正確な健康・医療データを収集、蓄積することを始めようとしたのだ。
では、どうやってデータを収集するのか。そこで白羽の矢が立ったのが、那覇市医師会が運用していたLHRシステムだ。LHRは個人が生涯に記録するさまざまな健康・医療情報のことで、このシステムに多岐に渡るデータを集積するとともに、そのデータは医療機関や個人がインターネットで閲覧できる。
現在までにLHRシステムの登録件数は100万IDを超える。那覇市医師会の検診センターや検査センターなどからのメディカルデータが随時アップデートされている。メディカルデータの項目は性別や生年月日、身長や体重などから始まり、血液検査などの細かなものまで含めると5000近くに上るという。
このシステムを久米島にある1つの病院、2つの調剤薬局にも導入し、住民のデータを収集、蓄積するようにしたのである。
住民の健康・医療データベースを作るとともに、久米島が医療改革に取り組もうとしたもう1つの理由が、生活習慣病に対する問題意識だ。久米島の住民は生活習慣病になる比率が以前から高く、その原因を解明するためにデータの分析が役立つと見たのである。
実際にデータを集めてみて分かったのは、久米島の住民の多くは幼少のころから腎機能の数値が悪く、それが生活習慣病になりやすい原因になっているのではないかということである。研究者はこの結果は偶発的なものではなく遺伝的なものではないかと見ており、デジタルヘルスプロジェクトにおいては並行してゲノムの研究も行っている。
「元々は久米島が住民の健康・医療データを蓄積して、将来の住民の医療に活用したいという思いでLHRシステムを導入したわけですが、そこで集まってくるデータに研究者や医療メーカーなどが問題意識を持って集まってきたことで、ここまでのプロジェクトに発展したのです」(志茂社長)
久米島にとってみれば、特別な負担をせずに住民の健康特性を研究者が前向きに解明しようとしてくれており、最先端医療の取り組みが展開されているということで定住促進や産業育成にもつながる可能性があるため、プロジェクトの推進に積極的なのは言うまでもない。
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