なぜ沖縄の離島でデジタル医療改革が進んでいるのか?:人口8000人の町を舞台に(3/4 ページ)
沖縄本島の西方に浮かぶ久米島。人口8000人足らずのこの島で今、デジタル技術を活用した医療改革が行われているのをご存じだろうか?
薬局での不便を解消
久米島デジタルヘルスプロジェクトでは、デジタル技術活用による住民への健康支援や、医療サービスの利便性向上なども目的に掲げている。
健康支援については、例えば、住民の自宅の体重計と専用アプリをBluetoothでつなぎ、毎日の測定データがLHRシステムに同期するような仕組みを構築。本人だけでなく医師なども日々の健康データを共有できるようにした。今後は活動量を計測するウェアラブル端末など、いくつものデバイスとLHRシステムを連携して、日常的により多くのデータを収集できるようにするという。
医療サービスの利便性向上に関しては、特に薬局での不便を解消しようとしている。通常、病院で診察された後、紙の処方せんをもらって調剤薬局へ持って行き、そこで薬を受け取るだろう。久米島でもその流れ自体は変わらないが、各所にデジタルの要素を入れて、無駄な手間暇をなくそうとしているのだ。
具体的には、診察が終わると、電子カルテに書かれた処方せんの情報が、病院内のシステムでは会計情報として処理されるとともに、LHRシステムにもリアルタイムでデータが反映される。患者が受付窓口に行き、そこに設置されたタッチパネルにQRカードをかざすと、薬を受け取れる薬局のリストが出てくる。いずれかの薬局を選択すると、LHRシステム経由で処方せんデータが薬局のシステムに送られる。そして、薬局の混雑状況などを見て、例えば、15分後に薬ができるといった情報がパネル上で患者にフィードバックされるのだ。
「離島に限った話ではありませんが、診察後に薬をもらうまでが大変なのです。どこの薬局もそうですが、患者さんが集中すると待合室がいっぱいになり、夏場だと炎天下の中、外で待たないといけません。具合が悪くて病院へ行ったのに、そうした状況はとりわけお年寄りにとっては過酷です」と志茂社長は述べる。
この新たなシステムによって、患者はわざわざ薬局で待つ必要はなく、時間を効率的に使うことができる。中には待ち時間の間に買い物したり、いったん自宅に戻ったりする人もいるそうだ。
実は、これは患者だけでなく薬局側にもメリットがあるという。どのくらいの患者が薬局にやって来るかが前もって把握できるようになるからだ。医師と同様、離島では薬剤師も不足しているが、患者のピーク時間を調整したり、場合によっては患者の自宅に薬剤師が薬を届けるようにしたりすれば、少ない人員でも効率的に業務を回すことが可能になるのではないかと考える。
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