中国人観光客を締め出しても、「日本の花見文化」が守れない理由:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
「お花見」の経済波及効果が注目されているが、実は不安材料もある。それは「中国人観光客」。彼らに対する「被害者意識」が、好調なインバウンド消費にブレーキをかけてしまうのではないか。
サクラノミクスにブレーキをかける「被害者意識」
なんてことを聞くと、「分かるわ〜、あいつら桜の枝を折るわ、ごみを捨てるわとやりたい放題だもんな。心置きなく花見を楽しめるようにマジで入国禁止にして欲しいわ」と大きくうなずいている方もかなり多いだろうが、筆者が言いたいのはそういう話ではない。
むしろ、そのように花見に訪れる中国人観光客へ向けられる敵意というか、「文化を侵害された」という被害者意識が、サクラノミクスにブレーキをかけてしまう、ということを申し上げたいのだ。
「ナンチャラ反対!」と声をあげてデモや抗議をしている方たちの主張に耳を傾ければよく分かるように、「被害者意識」は強い排他性・攻撃性に結び付く。今のように、「中国人観光客から日本が誇るお花見文化を守れ!」という「被害者意識」が強まっていけば、その攻撃性が誰へ向けられるのかというのは自明の理である。
そんなもん、人様の国にやってきて勝手なことをするあっちが悪いんだからしょうがないだろ、というのが大多数の日本人の感覚だが、外国人観光客側の目線に立てば、これほど理不尽な話はない。
例えば、なぜ今の時期に中国人観光客が大挙して日本を訪れるのかというと、「日本の桜もわれわれ中国人民のものね」という侵略者のような感覚からではなく、ごくシンプルに日本側が「桜を見に来てね」と誘ったからだ。
「桜の歴史から花見文化、桜を見ながらの露天風呂、桜餅など、『桜と日本人とのストーリー性を持たせた日本の桜』をテーマに、中国市場や台湾市場を始めとした海外主要国においてプロモーションを実施してきた結果、既に『日本への観桜ツアー』が各国で定着している」(国土交通省「平成25年度観光の動向」より)
「来てください」と何年にもわたってしつこく誘われたから試しに来てあげたら、行く先々で憎しみの目を向けられ、「お前らはわれわれの文化を壊すためにやってきたのか!」と言いがかりをつけられる。もしご自分がどこかの国でそんな目にあったらどうだろう。帰国をしたら会う人、会う人に「外国人に冷たくて、ロクでもない国だったよ」と悪口を言いまくるのではないか。
つまり、「悪事千里を走る」のことわざの通り、日本で味わった「お花見トラブル」がSNSなどで拡散され、サクラノミクスはおろか、日本のインバウンド自体もマイナス影響が出る恐れがあるのだ。
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