上がらぬ賃金に人不足 保育士の働き方改革は可能か?:全職種平均より月8万円低い(5/5 ページ)
保育士の不足が大きな社会問題となっている。人材確保のために賃金改善が望まれているが、なぜそうした事態に陥っているのだろうか。このような処遇の現状と背景、今後の処遇改善策について検証したい。
働き方の改善
上記で述べたように、保育士の有資格者が保育士として働かない理由には、働き方の問題もある。
独立行政法人「福祉医療機構」(WAM)が保育所と認定こども園、計1615カ所に行った調査(※13)によると、有給休暇を除く年間休日日数は「101日以上106日未満」が20.9%で最多だった(図表10)。
これに対して、16年就労条件総合調査によると、全産業の平均休日日数は113.8日で、保育所と認定こども園のうち約7割が、全産業平均を下回っている。図表1で見た「休暇が少ない・休暇がとりにくい」という保育士有資格者の不満を裏付けた格好である。現場では、人手不足のために休日が取れず、休日日数が少ないために新たな保育士も採用できないという悪循環に陥っている。
働き方を改善するために考えられる手段の1つが、ICTの活用である。前述のWAMの調査によると、会計にICTを導入していた保育所等は67.1%だったが、他の事務では低迷している(図表11)。
厚生労働省によると、保育士の1日の業務のうち、「会議・記録・報告」にかかる時間は1時間弱に上っており(※14)、ICTをより積極的に活用することが保育士の負担軽減や残業時間の短縮につながるだろう。
今後、賃金改善や昇給制度の充実により保育士のキャリアパスが明確になったり、ICT活用により生産性が向上したりすれば、離職率が低下すると期待できる。その結果、職場に余裕が生まれ、経験者が若手を指導したり、互いにサポートし合ったりすることにつながる。図表1で見た不満のうち「責任の重さ・事故への不安」「休暇が少ない・休暇がとりにくい」などの問題に対しても、一定の改善が期待できるだろう。
政府はこれまでにも保育士の待遇改善策を実施しており、12年度から17年度までの賃金水準の引き上げ率は計10%以上となる。待機児童解消のために、今後も保育士の賃金に税金を投入するならば、より詳細に現状を評価し、どのように加算すれば最も効果的か、慎重に中身を詰める必要がある。
また、処遇や職場環境の改善に取り組んだ事業所は、その取り組みをアピールし、自ら離職率や平均残業時間などを公表することによって働きやすさを「見える化」することが、人材確保につながるのではないだろうか。
※13 WAM「『保育人材』に関するアンケート調査の結果について」(17年5月23日)より
※14 第3回「保育士等確保対策検討会」(15年12月4日)資料より
参考文献:綾高徳(2014)「介護職員の労働生産性に関する一考察」
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