「キリンレモン」に学ぶ、成功するリニューアルの鉄則:90周年を機に変わったロングセラー(1/2 ページ)
90周年を迎えたロングセラー炭酸飲料「キリンレモン」のリニューアルが好調だ。リニューアルを手掛けたキリンビバレッジの女性マーケターに、「成功するリニューアルに欠かせないもの」を聞いた。
キリンビバレッジのロングセラー炭酸飲料「キリンレモン」が売れている。90周年を迎えた4月に、パッケージや味を大きくリニューアル。飲料業界では「発売2週間で1000万本」がヒットの目安と言われているが、わずか1週間で1000万本を売り上げ、好調なスタートを切っている。
リニューアルを手掛けたのは、入社9年目の女性マーケター・二宮倫子さんだ。「午後の紅茶」「ファイア」ブランドを経て、現在はキリンレモンのほか、「キリン メッツ」といった炭酸ブランドを担当している。
キリンレモンは1928年に発売されたキリングループの“顔”ともいえるブランド。しかし2014年のリニューアル以降はほとんど投資をしておらず、15年からは同じ炭酸ブランドのメッツに集中投資。その結果、キリンレモンの売り上げはゆるやかな右肩下がりの状態にあった。
課題も生まれていた。14年のリニューアルは、10代をターゲットにし、高校生と共同開発をしたもの。ブルーとイエローでボトル全体を覆うようなパッケージだった。フレッシュさはアピールできたが、ブランドが生まれた当時の「着色料を使っていない無色透明の炭酸飲料」というイメージは消費者に伝わりづらくなった。ヒアリングをすると、「液体の色は黄色でしたよね?」「ちょっとジャンクな感じがする」といった声も挙がった。
「再びキリンレモンに力を入れよう」――そんなプロジェクトが立ち上がったのは17年の春ごろ。さまざまな案が出される中で、二宮さんはリニューアルを提案した。ただ、「90周年だから」という“周年モノ”としての施策ではない。
「90周年は社内にとっては重要な節目ではありますが、お客さんにとっては大きな価値になりません。『90周年だから飲んでね』というコミュニケーションは、いわばメーカーのエゴです。改めて原点に立ち戻ってブランドを見つめ直してみると、キリンレモンには今の時代だからこそ打ち出せるポテンシャルがありました」(二宮さん)
炭酸飲料市場は大きく変化している。消費者のトレンドは「甘さ離れ」「健康志向」で、無糖炭酸飲料は2桁成長を遂げているが、甘い炭酸飲料は横ばいの状態にある。その中で、90年前のキリンレモンがこだわっていた「着色料・人工甘味料を使わない」という価値が力を発揮すると考えた。
「90年前にそこに価値を見いだしていたのが、今思うと非常にセンセーショナルですよね。一周まわって……というわけではないのですが、『品質にこだわった、安心して手に取れる炭酸飲料』は、今の時代にマッチした価値になっている。キリンレモンのもともとの立ち位置に戻すことが、大きなビジネスチャンスになると考えました」
リニューアルの“鉄則”
パッケージデザインはガラリと変えた。90年前のパッケージを踏まえ、キリングループを象徴する聖獣の麒麟(キリン)を中央に。ラベルは黄色と青色と水色の“キリンレモンカラー”を使ったが、「着色料不使用」を伝えるために透明の印象が強い。ペットボトルの容器は「できるだけビンのように見せた」という。味も消費者の好みの変化に合わせ、甘さを控え、香りも果実のレモンに近いピール感のあるものにした。
新たにメインターゲットとしたのは、20〜30代の男女。特にペルソナとして設定したのは、「ナチュラル」や「健康」にこだわっている20〜30代の感度の高い女性だ。二宮さんは「ブランドはお客さまと作っていくもの。例えばAppleのMacにオシャレなイメージがあるのは、使っている人たち自身がスタイリッシュだからですよね。『最初に選んでほしい人』を1つの指標として、その人たちが『買ってもいいな』と思ってもらえるキリンレモンにすれば、そのフォロワーにも手に取ってもらえるようになると考えました」と話す。
関連記事
- 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - 「昭和の喫茶店」が廃れる一方で「ルノアール」が好調な理由
低価格が武器のコーヒーチェーンが伸びる一方で、昔ながらの「昭和の喫茶店」が次々と閉店を余儀なくされている。喫茶店としては割高な料金でゆったりと過ごせる椅子やテーブルが特徴の「喫茶室ルノアール」が好調だというが、その理由とは? - 6畳弱の狭い物件に、住みたい人が殺到している理由
6畳弱の狭い物件が人気を集めていることをご存じだろうか。物件名は「QUQURI(ククリ)」。運営をしているピリタスの社長に、その理由を聞いたところ……。 - 11年ぶり過去最高 キリン「氷結」が超えた壁
缶酎ハイのロングセラーブランド、キリン「氷結」。2017年の販売数量は11年ぶりに過去最高を更新。新商品「旅する氷結」も好調だ。強さの理由を聞いた。 - 石けんを販売している会社の傘が、なぜ郵便局で売れているのか
郵便局で「傘」が売れていることをご存じだろうか。その名は「ポキッと折れるんです」。なんだかゆるーいネーミングだが、どのような特徴があるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.