世界で認められている「免疫療法」が、日本で「インチキ」になる背景:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
末期がんだったのに、「免疫治療」をうけて完治した――。このような話を聞くと「いかがわしいなあ」「詐欺でしょ」と思われたかもしれないが、海外では違う。欧米では免疫治療の研究が進んでいるのに、なぜ日本では「インチキ」呼ばわりされるのか。
免疫療法を「インチキ」呼ばわりする日本の医師
カモにされないようぜひ肝に銘じたいところだが、一方で、このような免疫療法詐欺を撲滅するには、日本の医療制度を根幹から見直さなければいけない気もする。
これまで詐欺や悪徳商法を取材してきた経験から言わせていただければ、「詐欺師」と呼ばれる人々は、金をダマしとるため、誰が困っているのか、誰が弱っているのかを見極めて、お縄にならないよう、システムエラーの隙をつくことに長けた人々だ。
いまの日本でここまで免疫療法詐欺が問題になっていることは、裏を返せば、日本の医療というものが、がん患者やその家族が「カモ」にならざるを得ないほど、どうすればいいのか分からないと迷い、救いを求めているということでもある。つまり、「標準治療が効かなければサヨウナラ」という日本のがん医療が皮肉なことに、免疫療法詐欺のナイスアシストをしているような状況なのだ。先ほど引用した中村氏のブログには、こんなことも述べられている。
『国際的な環境は、「何かが起こる危険があるから、何もしない」といっているような悠長な状況ではない。「真っ当な免疫療法の科学的な妥当性を評価しつつ、怪しげな免疫療法を抑え込む」ことが、国・学会・医学研究者・医師を含む医療従事者の使命のはずだ。』(同上)
「怪しげな免疫療法」がまん延している責任の一端は、科学的に認められている免疫療法をいまだ「インチキ」呼ばわりする日本の医師たちにもあるのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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