純利益2.5兆円のトヨタが持つ危機感:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
トヨタの17年度決算は、売上高、営業利益、営業利益率、当期純利益の全ての指標で前年比プラスであり、車両販売台数もグループ全体でプラスと見事な数字に見える。しかしながら、それは前年決算の数字が悪かったことに起因するのだ。
北米マーケットの問題点
どこの国でマイナスを出しているのかを見てみよう。これはくっきりと北米の不振を映し出している。
上の折れ線グラフが示すクルマの販売台数もわずかにダウンしているが、それ以上に深刻なのは棒グラフの営業利益で、なんと60%ダウンという惨状だ。クルマの台数に対して利益がそれほど悪化しているということは、販売報奨金をガンガン積み上げているからだ。2018年からZEV(ゼロエミッションビークル規制)のエコカーからハイブリッド車が外されたこともこれに追い打ちをかけているはず。比較的高価格なハイブリッドの台数縮小は大きな痛手になる。それをカバーするためにも報奨金を積み増さなくてはならない。併せて、米国の金利上昇による自動車ローン金利の高騰を緩和するために、対策金をつぎ込んでローンの利率を抑えていると思われる。これらのトータルで1987億円が消し飛んでいる。
反対に思わぬ成長マーケットになったのは欧州だ。
トヨタでは「原価改善と営業面の努力」と分析しているが、欧州では、フォルクスワーゲン・ショック以来ディーゼルモデルの売り上げがダウンしており、遅ればせながらハイブリッドが売れ始めている。ディーゼルゲート事件の15年に約20万台だった欧州でのトヨタ製ハイブリッド車の年間販売台数が、17年の実績では約39万台と2年間でほぼ倍増している。「ハイブリッドは日本のガラパゴス」とうそぶいていた欧州陣営は自らの掘った墓穴にはまったと言える。
さてこれらの結果を踏まえて、トヨタは18年度をどう予測しているのだろうか? 販売台数はマイナス1万4000台の895万台。グループではプラス5万9000台の1050万台を見込んでいる。売上高はマイナス3795億円の29兆円。営業利益は998億円マイナスで2億3000万円。営業利益率はマイナス0.3ポイントの7.9%。当期純利益は3739億円マイナスの2兆1200億円。当期純利益率は1.2ポイント下がる7.3%と予想している。全項目マイナスである。
ひとまず北米マーケットを何とかしないと、この予想通りの結果か、場合によっては下振れの可能性もある。金利上昇や景気の冷え込み、あるいはZEV規制だけが問題ではない。
北米の稼ぎ頭であるカムリに乾坤一擲(けんこんいってき)の新型を投入した上でのこの成績は大変厳しい。クルマの出来は相当以上に良いのだが、フォードが既にセダンモデルからの撤退を発表したように、セグメントそのものが存続の危機にある。せっかく性能面でクラスでトップの新型を投入したにも関わらず、その効果が期待できない。
マーケットの方向性としては明らかにSUVに向かっている。早急にSUVモデルのラインアップを充実させる必要があるだろう。
豊田章男社長は、ここしばらく「100年に1度の大改革」「生死を賭けた戦い」という言葉を頻繁に発し、GoogleやAmazon、Uberといった異業種からの参入を意識し、また「自動車を作る会社」から「モビリティ・カンパニー」への変革を宣言している。それこそがトヨタの危機感の源泉なのだろうが、しかしそれらと並行して、従来世界での戦いもまたおろそかにはできない。
筆者が社会人になって最初に教わった言葉は「今日の糧、明日への準備、明後日への布石をバランスよくやれ」という言葉だった。トヨタは明日への準備としてSUVの拡充をどうするつもりなのか? 明後日への布石こそ一生懸命説明しているが、そこの説明は少々足りていないように思う。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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