ラフプレーと財務職員自殺 “服従の心理”の末路:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/5 ページ)
日大アメフト部のラフプレー問題で、選手が監督やコーチの指示に逆らえなかった心情を語りました。悪いことだと分かっていても、権力者の命令に従ってしまう。その心理は誰にでも働く可能性があり、50年以上前の実験でも明らかになっています。
「命令通りやっている」という気持ち
ここでポイントとなるのが、教師役の隣に座る「監視」役です。監視役は「白衣を着た権威のある博士らしき男性」で、教師役はこの監視役に実験の中断を申し出る必要があります。
ところが実際には、教師役が中断を申し出ると、監視役は感情を全く乱さない超然とした態度と低い声で、次のように通告するように決められていました(教師役は知らない)。
「お続けください」
「続けることが絶対に必要です」
「迷うことはありません。続けるべきです」
「罰の効果を見る実験なのですから、続けなくてはなりません」
生徒役が電気ショックで苦しむ姿を見かねて「実験中止」を申し出る教師役に、強硬な態度で心理的プレッシャーをかけ続けたのです。
その結果、なんと教師役となった一般被験者の62.5%が、途中で実験を中断することなく、最大の450ボルトになるまで電気ショックを与え続けました。目の前で生徒役が絶叫しているのに、「続けなさい!!」と監視役が無表情で繰り返すと、再び実験を続行したのです。
何人かの教師は「実験協力費を返すから止めさせてくれ!」と訴えましたが、権威のある博士らしき男が、「私たちの指示に従えば良いのです。実験の責任者は私たちです」と実験続行を強要すると、再び実験を再開しました。
「悪いことだと思いながらも、権力(=監視役)に服従してしまうのは、『自分はちゃんと命令通りやっている』という満足感が、『生徒を痛い目に遭わせている』という罪悪感を上回るからだ」。ミルグラム博士は、おぞましい行為を続ける教師役の心情を、こう説明しました。
関連記事
- 日大アメフト部の監督に逆らえば、「路頭に迷う」は本当か
日大アメフト部の選手が、関学の選手に悪質タックルを仕掛けた問題がヒートアップしている。一歩間違えれば大ケガにつながってしまうかもしれない行為を、なぜ選手は行ったのか。その背景には、監督に独裁者としての顔があって……。 - あの大企業も大炎上 「しかるべき手続き」の落とし穴
キリンビバレッジがTwitterで発信し、炎上した「午後ティー女子」。社内で「しかるべき手続き」が行われたはずなのに、なぜ間違ってしまったのか。 - 残業削減のためにまた会議? トップの意味不明な指示を生む“罠”
残業削減を唱えながら会議が増える……。トップの意味不明な指示に困っていませんか? 彼らは自分の考えが正しいと信じ、現場の問題に向き合うつもりはありません。そんなとき、私たちができることは何でしょうか? - 必殺・新人つぶし! ――裸になれない“小ジジイ”の壁
新入社員を待ち受ける“小ジジイ”の壁。小ばかにした態度で指示したり、自慢話を延々と続けたりして、モチベーションを下げる人たちです。“小ジジイ”にならないようにするには、どうしたらいいのでしょうか? - 真面目な組織人ほど「うそ」や「不正」に走りやすい理由
『ワイドナショー』でダウンタウンの松本人志さんが、土俵の女人禁制問題について語った。「女性の方は土俵から降りてください」とアナウンスした行司について、「真面目がゆえに、こうなっちゃってるんですよ」とコメント。ネット上でも話題になっているが、筆者の窪田氏はどのように感じているのかというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.