ラフプレーと財務職員自殺 “服従の心理”の末路:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/5 ページ)
日大アメフト部のラフプレー問題で、選手が監督やコーチの指示に逆らえなかった心情を語りました。悪いことだと分かっていても、権力者の命令に従ってしまう。その心理は誰にでも働く可能性があり、50年以上前の実験でも明らかになっています。
人間とは強くて、弱きもの
ミルグラム実験は当初、1963年に「服従の行動研究(Behavioral study of obedience)」というタイトルで米国のジャーナルで発表されたのですが、それは世界に衝撃を与えるとともに、実験の残酷さと倫理的な問題から猛烈な批判を受けました。
その10年後、ミルグラム博士はその他の実験も交え、著書『権威に対する服従』を出版。そこには「人間は権威ある他者から要求された時、たとえそれが罪のない他者を傷つける行為や、本来なら行ってはいけないような行為であっても従ってしまうとする理論」が、実験被験者たちの微妙な心理状態や社会学に忠実に従った考察で描かれており、米国心理学賞を受賞しました。
あくまでもこれは実験結果であり、62.5%という数字の解釈も難しいのですが、「独裁者」と揶揄(やゆ)される権力者に対して、「もの言わぬ文化」が浸透していた日大アメフト部で起きた事件を理解するには、十分価値のある実験です。どんなに「自分はイエスマンにはならない」「自分は良識ある判断ができる」と自負する人であっても、「絶対そうならない」なんて保証はどこにもありません。
人間とは強くて、弱きもの。その真実を20歳の若き青年が教えてくれたのです。
そして、時間の経過とともに、「自分は言われる通りにきちんとやっているのだから、最終責任は命令を出している命令者だ」と、責任回避を行う“代理状態のマシン”と化していくのです。
彼にとって内田監督は、監視役でした。監視役の意に背くことは“実験=大学生活”から離脱すること。そんな選択を迫られたとき、多くの人は指示に従ってしまうのではないでしょうか。
権力と服従の罠(わな)にはまると、命令を下す権威者だけに敏感に意思が向くようになり、非人道的なことをやっていても、「自分は命令に従っているだけだから、悪くない」と自分の行動を正当化する傾向が強まっていきます。
しかも厄介なことに、そういった行為が権力者の横暴をますます助長するのです。権力が服従を生み、それが権力を強化する。恐ろしいことです。
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