「社員を不幸にする」人事の特徴:人事はつらいよ(2/2 ページ)
売り手市場を背景に、求職者の意識は変化している。では人事の意識や質はどう変わっているのだろうか? 「転職バー」の店主に、人事の最前線を聞いた。
人事こそ、ビジネスを見るべし
人事のキャリアはさまざま。「20代の頃からずっと人事をやっている」というような“ベテラン人事”も存在する。しかし鈴木さんは「人事だけやっている人事はダメ」と断言する。
「数字が読めない――つまりビジネスが分かっていない人事は非常に多いです。人事の仕事とは、本来は事業を達成するために必要な組織を作ること。しかし事業の目的が分からなければ、会社が必要とする採用はできません」
事業のフェーズによって、組織が必要とする人材は違う。「新卒or中途」「5年後を見据えてor今すぐの欠員補充」「ポテンシャルor即戦力」――と、採るべき人材は変わってくるのだ。しかし人事が事業の現状と目標を把握していなければ、「とりあえず30人は採用する」という数だけの目標になってしまう。
「人事は営業のような事業経験があった方がいいですね。『私は社員を幸せにするために働いています』と言いながら事業を見ていない人事は、一見“天職”のように思えますが、本当の意味では向いていない。人を“好きすぎる”人事では、事業を成長させるための冷静な判断ができません。ビジネスを知らず、企業視点を忘れてしまえば、ミスマッチやビジネスの伸び悩みの要因にもなり得ます」
またYさんによると、「人を好きすぎる」ではなく、「自分が好きすぎる」人も、人事には向いていないという。「人事は全社員の給料を把握できてしまう仕事。自己承認欲求が強い人は、『あいつは自分よりも仕事をしていないのに、給料をもらっている』と思ってしまう。自分のことで頭がいっぱいになっている人が、他人について考えるのは難しいでしょう」(Yさん)
人事は「営業」
その一方で、事業部や経営者側が人事に一貫したメッセージを出せていないこともある。人事が「どんな人材がほしいのか?」と聞いても、「いいよ、とりあえず仕事ができれば!」と丸投げにするようなパターンだ。ビジョンのない採用計画は、採用される側も、人事のことも不幸にする。
「少なくない経営者のホンネは『人や組織作りのことなんて自分では考えたくない。ビジネスのことだけ考えていたい』ではないでしょうか(苦笑)。組織作りやチームワークをうたってはいても、魂がこもるほど組織について考えている経営者はそうはいません。ほとんどが採用マーケティング的なところでとどまってしまう。人事が組織を変えたいと思っても、経営者が本気で投資をする気がないなら、ぼろ雑巾のようになってしまいますよ」
鈴木さんは、「人事とは、営業である」と話す。採用という市場の中で、求職者という“客”に向かって会社を売り込む営業だ。
「自分でも良いものだと思える商材を売れる営業は幸せです。逆に、本当は正しいと思っていないものを売り続けなければいけないのは不幸。『この会社を心から勧められる』と思えないような会社で人事をしているなら、早く辞めたほうがいい。人事1人が不幸になるだけではなく、いま会社にいる人、将来会社に入ってくる人みんなを不幸にしてしまいますよ」
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