「期待の星」の女性ITエンジニアが辞めるわけ:中堅SIerの現場から(1/3 ページ)
また女性ITエンジニアが辞めた。女性が辞める現場で何が起こっているのか。中堅SIerに勤務するSEが“現場”をレポートする。
また、中堅システムインテグレーター(SIer)の現場で女性エンジニアが辞めた。同じ課内で3人目、今年はあまりに多い。
辞めたのは木下彩(仮名)。東証一部に上場しているこの会社に新卒で入社し、8年目を迎える中堅社員だ。フェミニンな甘めな服が似合う29歳。6人をまとめるチームリーダーだ。地頭が良く、論理的に考えることを得意とする。課長は「プロジェクトマネジャー(PM)くらいまでなら、難なく上がって行くだろう」と評価する“期待の星”だった。
飲みに誘って、辞めた理由を聞いてみた。「午前1時にオペレーターから電話がかかってきて、現場から呼ばれるようじゃ、体がもたないですよ。このままだと無理だと思ったんです」と木下はスッキリした顔で話してくれた。
大手信託銀行の情報系システムの保守を担当し、夜間に障害が発生したときに、緊急の連絡を受ける立場だ。深夜にタクシーで出社、障害対応を翌夕方まで行うこともあった。退職直前は月80時間の残業をしていた。
一般社団法人・情報サービス産業協会(JISA)が2017年に行った調査によると、女性ITエンジニアの割合は16.4%。他の業種に比べて、女性の少ない職場である。さらに入社から10年以内に約5割の女性社員が退職する。これは男性社員よりも10%以上高い。木下のように「これから活躍する」というタイミングで辞める女性社員が多い。
木下が「この業界で頑張っていこう」と思えるようなロールモデルは社内にいなかったか。経営陣なら「山田がいるじゃないか」と言うかもしれない。木下の上司、山田紀子(仮名)は社内で評価の高い女性課長だ。43歳で50人の社員を束ねる。そして中学生2人、小学生2人、計4人の子どもたちの母でもある。女性管理職の割合がわずか5.4%のIT業界では、山田のような存在は珍しい。
しかし木下は皮肉な口調で話す。「山田さんは確かにすごいですよね。でも、絶対にあの働き方はマネできない」。
「ロールモデル」にならない女性上司
山田は3年前、社内でも屈指の大型案件のPMを務めていた。担当していたのは大手金融機関の企業年金システムの20億円を超える新規開発である。率いたチームがコンペで大手SIerに勝ち、受注した。しかし、開発はうまくいかなかった。スケジュールは半年ほど遅れた。遅れを取り戻すため、30人のメンバーは会社に泊まり込んで開発をしていた。
その当時の山田の日々は壮絶だ。定時(午後6時)にいったん退社して、保育園に子どもを迎えに行く。午後7時から夕飯の準備、子どもに食べさせる。午後10時、会社に戻る。午前3時近くまで仕事をして、会社の椅子で仮眠。そして、実は妊娠もしていた。「旦那も手伝ってくれてはいるんだけど、やるところはやっとかなくちゃね」。山田はどんなに忙しくても、仕事も家事も手を抜かない。
そこまでして、働き続ける理由を聞いてみると、こう返ってきた。「私、やっぱり開発現場が好きなんだよね」
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