日本以上のブラック労働でも悲壮感はない、中国のある事情:72時間連続で働け(2/3 ページ)
かつて日本では「24時間戦えますか」をキャッチフレーズにした商品がヒットしたが、現在の中国は、その3倍の72時間働き続ける執着心が必要だと言われている。猛烈に働けば必ず成功するという信念は、かつての日本を彷彿とさせる。「工作狂」(中国語でワーカホリックの意)は決して悪い意味ではなく、できるビジネスマンの必須条件のように扱われているのだ。
IT企業の平均退社時間は21時50分以降
18年4月、広東省深セン市の南山ソフトウェア産業基地を取材した。テンセント、百度、マンゴーTVなどの大手IT企業、そして無数のコワーキングスペースとベンチャー企業が集まる区画だ。午後10時と遅い時間だったのだが、まさにこの時間が帰宅ラッシュのようで、ビルからぞろぞろと人が出てくる。タクシーで帰宅する人が多く、スマホアプリで呼ぶと「60人待ち」と表示されたほどの混雑ぶりだった。
中国地図サービス大手「高徳地図」(Autonavi)が17年に発表した「2016年度中国主要都市交通分析報告」では、マップアプリの位置情報を基に主要IT企業の平均退社時間を推定している。トップは通信機器大手のファーウェイで21時57分。以下、メッセージアプリのテンセント、ECのアリババ、ポータルサイト・ゲームのネットイース、ECのJDドットコムと続く。平均退社時間はいずれも21時50分以降。996工作制の午後9時よりも遅いわけだ。
長時間労働は辛くないのだろうか。社会問題化していないのだろうか。北京市のベンチャーキャピタルで働く郭さんに話をうかがった。名門・清華大学卒の24歳。IT業界と並ぶ長時間労働で知られる金融業界に身を投じたエリートだ。
「働き方改革ですか。うーん。確かに中国の生活はストレスフルですが、長時間労働だけが問題じゃないんですよね」
中国には働き方改革は必要ではないのか? そう質問すると、郭さんは首をかしげた。
「最大のストレスはマイホームでしょうね。中国では結婚前にマイホームを買っておくのが当たり前という観念があるのですが、なにせ不動産価格はすごい勢いで上がっていますから、大変です。購入してもローンの返済が大変だったり。房奴(住宅ローンの奴隷)なんて言葉もあるほどですよ。中国のホワイトカラーは成果報酬が一般的です。成果を上げれば、年終奨(旧正月前のボーナス)も翌年の給料もがらりと変わる。だから必死に働くんですよ」
働いた分だけ見返りがある。長時間労働が一般的でも悲壮感がないのはこのためではないか。中国では前年比10%の昇給などざらにある話だ。民間企業では年功序列の観念もなく、ロケット出世も珍しい話ではない。
また仕事の仕方も関係していそうだ。5月、激務で有名なアリババグループの本部を訪問したが、敷地内で見かけた社員たちの顔は生き生きとしていた。長時間労働で疲れないのだろうかと広報のCさんに尋ねると、「確かに仕事時間は長いかもしれませんが、辛く感じられないのは、無駄な残業じゃなくて有効な残業だからかもしれませんね」と回答。激務とはいえ、意味のない書類作りや会議を省く合理化が徹底されているという。コアの業務に集中でき、そこで成果を挙げれば収入アップにつながるというわけだ。
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