トヨタ流の働き方改革とは何か?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
トヨタ自動車が働き方改革にモーターレースを用いるという、非常にユニークな取り組みを行っている。まずは働き方改革の全貌をざっくり分かってもらわないと意味が伝わらないだろう。今回は予備知識編として、働き方改革の俯瞰(ふかん)的な話を書いてみたい。
付加価値の向上こそ急務
安い商品しか売れないので企業が薄利多売になり、その結果賃金が低迷する。消費者は収入が少ないから安いものしか買えない。ループして最初に戻る。
現状では、こういうしわ寄せが主に非正規雇用に集中し、その結果、同一労働同一賃金の原則が守れない。あるいは移民受け入れの議論もこの延長にある。人手は欲しいが給料が上げられないから安価な労働力が欲しいという話である。
しかもこのままいけば、非正規の給与水準に正規雇用の給与水準が近づいていくことになりそうだ。実際、厚生労働省の調査によれば、17年の新卒平均初任給は大卒男性で207.8万円。大卒女性だと204.1万円。月割りにすればそれぞれ17万3166円と17万83円。「有効求人倍率が高水準」とか「給与もわずかながら上昇基調にある」とする内閣府の作文の実態は、需給ギャップが給与に反映されているとは言いがたい状況である。
問題の根っこに近いところに低賃金があるのは確かだ。ただ単純に「給料を増やせ」と叫んでいれば改善するほど簡単ではない。賃金の継続的増加のためには、企業の利益もまた継続的に増えていかないとどこかで破たんする。事業の価値の最も根底にあるのは継続性なのだ。働く人にとっても消費者にとっても事業が急に打ち切られるのは非常に困る。企業と労働者は多くの利益を相互に共有する関係にあるというポイントは重要だ。
さて、賃金の低下と企業活動のサステナビリティという相反する2つの問題をブレークスルーするためには、当たり前だが、一人当たりの生産性を高めていくしかない。仮に生産性、つまり効率をそのままに人数の増加で「生産力=売り上げ」を伸ばしたとしても、一人当たりのリターンは増えないから賃金は上がらない。だから働き方改革の本丸は生産性改革であり付加価値の増加なのだ。
生産性改革もまた一筋縄ではいかない。例えば、昨今話題の人工知能(AI)やロボットを導入して生産効率を上げたら良いのかと言えばそうではない。生産性改革と生産効率改善はイコールではないのだ。
AIやロボットによって作業が軽減されれば、時間に余裕ができるはずである。その時間で何をするかが問題だ。ただ楽になって良かったという話だったら、作業量が軽減された分、余剰人員になる。リストラが行われるだろう。「仕事がなくなる」あるいは「仕事をAIやロボットに奪われる」という話は、機械化によって余裕となったリソースを他に振り向けて付加価値を増加できないから起きる問題だ。
残念ながらロボットにできる仕事にはもう価値があまりない。人間はロボットよりランニングコストがかかる。最初から勝負にならない。だからロボットにできないことをやらなくてはならない。そういう仕事が社内で創造できれば企業価値と生産性の両方が上がり、ブレークスルーが可能になる。仮に創造的改革ができない会社なら、効率改善のみに絞って労働時間を短縮し、代わりに副業を認めて、余剰時間を別の仕事で換金するシステムにする。
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