弱みだった「人」をどう変えた? アルバイト出身の女性役員が語るスープストックトーキョー流の働き方:顧客満足にも影響(5/5 ページ)
スープ専門店「Soup Stock Tokyo」を展開するスープストックトーキョーでは従業員の働きがいと働きやすさを推進し、顧客へのサービス向上や従業員のキャリア支援にもつなげようとしている。その取り組み内容や成果について、同社取締役の江澤身和さんに話を聞いた。
他社の成功事例をそのまま持ってこない
スープストックトーキョーが2016年の分社を機に新たに導入した制度のうち、ここに紹介したのはごく一部だ。今のところ、全部で14のユニークな施策が展開されている。
江澤さんは「人事制度を作るという経験もノウハウもなく、大変だった」と語るが、社長からは「いい意味で素人だからこそ、『やったらいい』と思うことを、どんどんやっていけ」と言われ、その言葉通り、本当にさまざまなチャレンジをした。江澤さんは「1つずつ順に実行していくというよりは、同時にいくつものことをスタートすることで、みんなにストレートにメッセージが伝わったのでは」と振り返る。
さまざまな改革の結果、重要なKPIである「各店舗の客数」は昨年対比101%に伸びた。また、採用されてもすぐに辞めてしまうようなパートナーが減ったり、パートナーからの紹介で入社するパートナーが昨年より10%ほど増えているそう。それは、最優先事項として取り組んだ「パートナーの巻き込み」が効果を上げ、各自のモチベーションや仕事の楽しさが増していることの表れだろう。
江澤さんは、制度を作るにあたって他社の事例なども参考にするが、必ず「スープストックトーキョーならどうやるか?」を考えるそうだ。
社員向けの生活価値拡充休暇とピボットワーク制度の導入を、同社は働き方改革ではなく「働き方開拓」と位置付けている。そこには、平均年齢30歳というまだ若い社員たちに対し、世間一般で言う「働きやすさ」だけでなく、それぞれの未来を「開拓」する機会を提供したいというメッセージが込められているのだ。
解消の糸口が見えない外食産業の人手不足問題。社員のモチベーションを高めて、それを顧客満足度の向上につなげていくというスープストックトーキョーの一連の取り組みは、同業者のみならず異業種でも参考にしたい働き方改革と言えるだろう。
著者プロフィール
やつづかえり(ERI YATSUZUKA)
ライター、編集者
コクヨ、ベネッセコーポレーションに勤務後、2010年にフリーランスに。13年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するWebメディア『My Desk and Team』開始。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』の初代編集長(〜18年3月)を務め、現在はYahoo!ニュース(個人)などで働き方、組織などをテーマに執筆中。
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