スノーピークの社員がテントの中で会議する意味:キャンプしながら働く(1/3 ページ)
新潟にある約5万坪のキャンプ場に本社オフィスを併設するスノーピーク。テントの中、あるいは焚き火を囲んでミーティングを行うような同社の働き方が今注目されていて、既に取り入れている企業も出てきているのだ。
約5万坪のキャンプ場の一角に本社オフィスを構え、社員はテントの中で車座になったり、焚き火を囲んだりしながらミーティングなどを行う。役員も新卒社員も分け隔てなく気軽に対話し、話が尽きないとなると、お酒を片手にさらに盛り上がる。オフィスにはシャワールームも完備されているので、自宅に帰らずにテントで寝泊まりする社員もいる――。
この会社の働き方が今、注目されているのをご存じだろうか。アウトドア用品を製造、販売するスノーピークだ。
既に横浜DeNAベイスターズが運営するシェアオフィス「CREATIVE SPORTS LAB」にミーティングスペース用のテントが導入されたり、東京急行電鉄が複合商業施設の広場にテントオフィスを設ける計画を発表したりするなど、さまざまな企業がスノーピークとコラボレーションして新しい働き方を推進しようとしている。
「テント内の距離感が参加者をフラットな関係にさせ、リラックスして会議に臨むことができます」と同社 執行役員 社長室長の青柳(正式表記は卯の左が「夕」)克紀氏はメリットを語る。
実はスノーピークがこのような働き方を実践するようになったのは、それほど昔のことではない。日本のキャンプ人口が減少し、同社のビジネスも苦しむ中、「原点回帰」によって自分たちのミッションを見つめ直そうとしたことがきっかけだった。
顧客のそばで働く
スノーピークは1958年に金物問屋として新潟・燕三条で創業。創業者の山井幸雄氏が登山家で、自分自身が欲しい登山道具を造ろうとしたのが始まりである。その後、86年に現社長の山井太氏が入社したころからオートキャンプ事業に着手し、ハイエンドで洗練されたアウトドア用品を製造するようになった。オートキャンプとは、クルマにテントなどのアウトドア用品を積んでキャンプしに行くことで、90年代初頭には全国的なブームになった。このブームを支えたメーカーとして同社は事業拡大していったのである。
しかし、90年代後半ごろからブームは急速に下火になり、キャンプ人口は激減する。ピーク時には日本全体の約20%を占めたキャンプ人口が、ここ十数年は6%前半でほぼ横ばい推移している。
ブームの終焉に伴い同社の業績も低迷したが、2003年に初の直営店を福岡と東京にオープンしたのを皮切りに、06年以降から一気に出店を加速し、じわじわと売り上げを伸ばしていった。14年に東京証券取引所マザーズ市場へ上場、15年には東証一部市場に指定され、現在の売上高は約100億円に達している。
同社がビジネスを急成長させるターニングポイントとなったのが、11年に新潟県三条市に建設した大規模なキャンプ場だ。当時の年商が30億円程度だったときに建設費として約17億円を借り入れた。いかに社運を賭けた巨大なプロジェクトだったのかが分かるだろう。「Headquarters」と呼ばれるこの場所は、キャンプ場と本社オフィス、工場、店舗を併設している。
キャンプ場にオフィスを構えた狙いは何か。青柳氏によると、スノーピークという会社のミッションやビジョンを可視化することにあった。
「僕たちは『The Snow Peak Way』というミッションを掲げていますが、それを実現するために何が必要なのかを再考しました。ミッションを実現するために、部門を問わずスノーピークのすべての社員が『北の方角』に向かっています。北の方角とはユーザーの幸せであり、それはキャンプ場で生まれているのです。だったら僕らもそこで働くべきだと感じたのです」(青柳氏)
迷いが生じたときには、オフィスの目の前で同社の道具を使ってキャンプをしている顧客に接することで、彼らのために自分たちの仕事があることを再認識するようになったという。これによって、今まで以上に顧客に寄り添った商品開発などが可能になったという。
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