メーカーから依頼殺到 お客が思わず引き寄せられる試食販売の世界:“凄腕”スタッフは40倍売る(1/4 ページ)
試食販売というと「商品を持ってただ立っている人」をイメージする読者も多いかもしれない。しかし、売り方を工夫して普通のスタッフの40倍売る“凄腕”がおり、試食販売の高い効果に注目する企業が増えているという。知られざる試食販売の世界とは?
スーパーで買い物をしていると試食販売をするスタッフを見かけることがある。メーカーから依頼を受けて店頭で新商品をアピールしているのだが、「試食だけして買わないのは申し訳ない」「立ち止まると商品を買わされるかもしれない」と考えて、試食をためらった経験のある人は多いだろう。
実はこの試食販売の世界には一般的なスタッフの40倍以上売る“凄腕”がおり、食品メーカーもその高い販促効果に注目しているという。今回は、知られざる試食販売の舞台裏を紹介する。
新商品発表会に現れた“凄腕”スタッフ
突然だが、まずは記者の個人的な体験談を紹介させてもらいたい。
とあるイオンの店舗で行われた報道向けの新商品発表会に参加した際、売り場を撮影するために鮮魚コーナーに足を運んだ。鮮魚コーナーには女性の試食販売スタッフがいたのだが、声のトーンや語り掛けるしぐさに記者は衝撃を受けた。
「なぜだろう。試食だけして立ち去っても嫌な顔をされないように感じる」
後日、イオンの広報担当者に問い合わせをしてみると、そのスタッフは、メーカーからの依頼を受けて、主にイオンの店頭で試食・推奨販売を手掛ける「イオンデモンストレーションサービス」(以下、ADS)の“凄腕”スタッフだったことが判明した。普段は販売スタッフの指導をする立場だが、新商品発表会のような“ここぞ”というときには自ら店頭に立つのだという。
小売業界では「マネキン」と呼ばれてきた
“凄腕”スタッフの名前は鈴木直美氏で、勤続9年目のセールスアドバイザー(SA)トレーナーだ。ADSでは試食・推奨販売スタッフのことをSAと呼んでおり、全国に約1600人いる。SAを教育・指導するSAトレーナーは全国に32人おり、鈴木氏はそのうちの1人だ。
小売業界では昔から試食販売を行うスタッフのことを「マネキン」と呼んでいた。商品をもってマネキンのように立っている姿からその名がついたと推測されるが、ADSでは商品の良さを説明して顧客に納得して購入してもらうことを目的にSAという名称を用いている。
鈴木氏は通常のSAならば1日100〜200個販売できれば上出来の「お魚ステーキ」を1000個以上販売した実績がある。さらに、丁寧な商品説明が必要なことから難易度が高いオリーブオイルを通常の40倍近く販売したこともある。
ADSの調査によると、顧客の80%は「試食をすると買わされる」と考え、試食コーナーの前を通り過ぎるという。SAはメーカーから依頼を受けた商品を顧客に推奨するのが仕事だが、警戒感を解き、試食してもらい、購入につなげていくにはどんなコツがあるのだろうか。
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