時差Bizが「満員電車ゼロ」の“最適解”といえる理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
東京都の「時差Biz」キャンペーンが7月9日から始まった。「満員電車ゼロ」を目指して、時差通勤を呼び掛ける取り組みだ。問題点も多いが、キャンペーン自体にはやる意味がある。なぜかというと、満員電車の解決策は一つしかないからだ。
満員電車から降りろ、解決策はそれだけだ
みんなが同じ時刻に出勤し、同じ時刻に退勤しなくてはいけない仕事は確かにある。工場の生産ラインなどはそうだ。この人たちのためにいまの通勤電車はある。しかし、自分の裁量で出勤時間を変えられる職種も多いはずだ。私は営業マンだったけれど、外回りから帰って書類を作る仕事は、翌日の早朝出勤でもできたと思う。
夕食を兼ねた会議や接待などやめてしまおう。むしろお互いにホテルの朝食を利用した方が気分もよく、企画会議や商談もはかどる。ホテルの朝食ビュッフェは2000〜5000円くらい。朝食の感覚としては高価だけど、居酒屋の総額よりも安価で健康に良い料理がある。深夜のドラマが見たい? 録画して翌朝に見ればいい。「早朝出勤するといいことがある」という、もっと分かりやすいメッセージがないと、人は動かない。
鉄道側の設備は変わらないから、満員電車の現状は変わらない。満員電車でつらい思いをしている人は、同じ時間に乗り続ける限り、ずっと満員電車のままだ。誰も助けてくれない。満員電車から逃れる方法はただ一つ。満員電車に乗らない。もっと早い時間の電車に乗るか、昼から出勤するか。あるいは通勤しないで済ませるか。それしかない。
しかし、まだ「そのうちなんとかなるかもしれない」という淡い期待を持つ人がいたら、早く目覚めさせてあげなくてはいけない。それが時差Bizキャンペーンの趣旨だ。だったらそのようにハッキリ言ってあげたほうがいいと思うけれども、残酷すぎて言葉にできないかもしれない。ならば私が言う。満員電車はなくなりません。あなたが降りない限り。
時差Bizのメリットを体験できたか。「変化なし」が意外と多い。しかしこれは悪い意味ではなく、ピークシフトしても普段と変わりなく「通勤がラクになったぶんだけ良かった」といえる(出典:東京都「時差Biz公式サイト」)
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 東京圏主要区間「混雑率200%未満」のウソ
お盆休みが終わり、帰省先から首都圏に人々が帰ってきた。満員の通勤通学電車も復活した。国も鉄道会社も混雑対策は手詰まり。そもそも混雑の認定基準が現状に見合っていないから、何をやっても成功できそうにない。その原因の1つが現状認識の誤りだ。 - 日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景
暑くなってきたので「満員電車」が辛くなってきた。「働き方改革を実現しよー」「時差出勤をしよー」と叫ばれているのに、なぜ“通勤地獄”は解消されないのか。その歴史をひも解いてみると、意外な事実が……。 - 東京都政「時差Biz」は「都民ファースト」ではない
東京都が実施した「時差Biz」キャンペーンを覚えているだろうか。通年キャンペーンだと思ったら、7月11日から2週間のキャンペーンだった。「満員電車を解消するために、2週間の早朝通勤を試してみませんか」という話だ。このキャンペーンで、都民は満員電車から解放されただろうか。 - 東急の“時差Biz特急” 多摩田園都市通過の本気度
東急電鉄が田園都市線の早朝に特急を新設・増発する。その名も「時差Bizライナー」。小池都知事が提唱する“時差Biz”に対応した列車だ。都議会選挙期間中の発表はあざといけれど、ダイヤを見ると神奈川県民向けサービスになっている点が面白い。 - 小田急電鉄の「戦略的ダイヤ改正」を読み解く
小田急電鉄は2018年3月のダイヤ改正を発表。4カ月も前に詳細を発表した背景には「4月から小田急沿線で新生活を始めてほしい」という意図がある。混雑緩和だけではなく、増収に結び付ける狙いだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.