変化と不変の両立に挑んだクラウン:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタのクラウンがフルモデルチェンジした。すでにクローズドコース試乗で高負荷域の「クラウン離れした」仕上がりを体験し、その激変ぶりをインプレッションに書いたが、今回改めて一般公道での試乗会が開催された。クラウンのクルマとしての真価はいかに?
プレミアム ── 最後の楽園
現在セダンは、ミニバンに白旗を掲げ、徐々に空間で勝負することを諦め、4ドアクーペ的なジャンルに軸足を移しつつある。台数が売れないなら単価を上げるしかない。とすれば、GTに近い方面へ立ち位置をズラして、プレミアム商品に仕立てるしかないのである。いや、その書き方は正確ではないかもしれない。むしろ販売不振に苦しんだ非プレミアムのDセグメントセダンやEセグメントセダンがどんどん生産中止に追い込まれ、プレミアムセダンしか残らなかったのだ。
そういう流れの中にクラウンもいた。ニッポンの高級車として名を馳せたクラウンも、ユーザーの高齢化とともに徐々に販売がシュリンクしていったのである。
さて、そんなわけで15代目クラウンは、プレミアム化を図らなければならない。プレミアムというどこかしらインチキ臭いお題目に一抹の寂しさを覚えるユーザーも多いことと思う。筆者もその一人ではあるが、旧来のセダンを愛する人たちが買い支えることができなかった以上、嘆いても仕方がない。
クラウンはプレミアムを主に2つの方向で表現した。ひとつが走りの高次元化だ。クラウンに採用されたシャシーは、たまたまFR用TNGAシャシーの頭出しで、以後レクサスの各モデルにも投入されていく。事実上の国内専用車であるクラウンを「ニュルブルクリングで鍛えたい」と言っても説得力が希薄だが、このシャシーの底上げがレクサスにも効いてくるとなれば、話は別だ。そうやってニュルで鍛えたことはトヨタも一生懸命プロモーションに活用している。
実際、シャシーの仕上がりが高いレベルにあることは、クローズドコースでの試乗によって明らかになった。トヨタがわざわざ試乗会を2度に分け、クローズドコースを用意したのは、その走行性能のかさ上げがプレミアムに値することを訴求したかったからだ。
もうひとつは、クーペ的なスタイリングだ。箱型からの脱却。ウインドーのオープニングラインでルーフが描く弧を強調し、さらにトランクリッドの平面をほぼ持たないというデザインは、クラウンとしては相当な冒険であったと思う。恐らく社内的にも反対意見は少なくなかったはずだ。それでも未来に向けて踏み出してみるしかない。それがクラウンを巡る実情だったのだ。デザインの仕上がり具合がプレミアムに値するかどうかは読者諸賢のご判断に任せたい。もし手放しで褒めたいものであったなら筆者は多分そう書くとだけ言っておく。
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