箱根に100億円投資、小田急が挑む「国際観光地競争」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
小田急箱根HDは、総額100億円を超える大型投資を発表。目玉は新型観光船だ。2020年に向けて「世界の箱根」を盛り上げていく。一方で課題もあって……。
西武グループと小田急グループは、かつて「箱根山戦争」と呼ばれた熾烈(しれつ)な競争関係にあった。当初は開発地域のすみ分けもあり共存共栄関係だったけれども、バス路線の競合から関係が悪化した時期がある。しかし、その後はそれぞれの会社にもいろいろあって、紆余曲折を経て、現在は関係の融和も進んでいる。箱根登山バスと伊豆箱根バスで異なっていたバス停留所名も統一が進む。
西武鉄道の駅では小田急箱根グループの箱根フリーパス付き乗車券を購入できる。西武鉄道はグループ傘下に伊豆箱根鉄道があるにもかかわらず、伊豆箱根バスのフリーパスではなく、小田急箱根グループのフリーパスを売るという「ねじれ現象」まで起きている。
冒頭で述べたように、小田急箱根グループが100億円を投じて箱根の魅力アップを図り、小田急電鉄がロマンスカーを新造して箱根輸送に取り組む理由は、観光地間競争の激化にある。関東からの観光地として、伊豆、日光、箱根、秩父、三浦、房総、富士五湖などがある。つまり、首都圏の観光客にどこを選んでもらうか、という競争がある。JR東日本と東急グループの伊豆、東武鉄道の日光、小田急の箱根、西武の秩父、京急の三浦はライバル関係にある。
そして、箱根と日光は法人観光客の争奪戦にとってもライバル関係だった。さらに、国際的な観光地というステージに立つならば、あまたの国際観光地がライバルだ。その中で箱根は「バスがめんどくさい」という欠点を持つ。もちろんどの観光地にも欠点はあるけれども、できるかぎり欠点はつぶしていかなくてはいけない。観光地は客に嫌な思いをさせたら負けだ。
フリーパスの不便とは関係なく、箱根の観光客は増加傾向だ。だからこのままでもいい。そんなふうに小田急グループも西武グループも考えているかもしれない。しかし、フリーパス共通化という大胆な施策は、景気のいいときに着手したほうがいい。箱根と秩父がタッグを組み、日光や伊豆に対抗する。世界の観光地と競争するには、そのくらいの視野を持つべきではないか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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