ドンキの圧縮陳列とPOP洪水を生み出した「泥棒市場」:ドンキの源流を探る(3/3 ページ)
「権限移譲」「圧縮陳列」「POP洪水」「迷路」――ドンキの強さを表すキーワードはいくつかあるが、これらはどのようにして誕生したのだろうか。創業者である安田隆夫氏の自伝からドンキの“源流”を読み解いていく。
ドンキの本質は権限委譲にあり
ドンキの競争力を支えているのは「権限移譲」だ。これは、一般的な小売りチェーンの本部が商品を一括して仕入れたり、各店舗で販売する商品の価格を指定するのとは違い、各店舗の責任者に仕入れ、陳列、値付け、売り場づくりなどを任せるシステムだ。権限移譲によって、各地域のニーズにあわせたきめ細かい品ぞろえが実現できるだけでなく、現場のモチベーションアップといった効果が見込める。
この権限移譲の考え方はどのようにして生まれたのだろうか。『安売り王一代』によると、安田氏は商品の仕入れに忙しかったので売り場づくりは従業員に任せていたが、自分の思う通りにならないことに腹を立てていた。苦悩の末に、「教える」という行為自体に意味がないと諦め、全てを任せることにした。売り場の担当者全員に専用の預金通帳を渡すほどの徹底ぶりだったという。
しかし、安田氏は単に部下に丸投げすることはしなかった。社員が面白がって競争するように仕向け、成果に応じた報酬を用意したのである。
この思想はドンキの幹部に確実に受け継がれている。例えば、ドンキ流のノウハウを導入するために、ユニーに乗り込んだ関口憲司取締役常務執行役員は18年2月の記者会見で「ドン・キホーテが捨てられない『権限移譲』や『成果主義』をどれだけ意識として共有できるかが重要だ」と語っている。
創業者のDNAを受け継ぐ幹部たち
ドンキホーテHDの大原孝治社長兼CEOは1993年にドン・キホーテ1号店に入社した生え抜き社員である。『安売り王一代』によると、ほぼ同時期に入社した社員に、後にドン・キホーテ社長となる成沢潤治氏(2013年に病気療養のため退任)がいるが、どちらも負けず嫌いだったため、安田氏は2人を意識的に競わせるような体制を作り上げた。ドンキの社員同士で競争しあう風土はこの時から育まれたのだろう。
このように、安田氏のDNAはドンキの経営方針や店舗の運営に今でも刻み付けられていることが理解できる。
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