突っ込みどころ満載! 「水槽より注目浴びるPOP」を作る水族館員の告白:連載:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(5/5 ページ)
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。
竹島水族館の強みは、水槽の大きさや魚の数ではない
竹島水族館の強みは、水槽の大きさや魚の数ではなく、「見せ方」にある。さらに言えば、お客さんに楽しんで見てもらうためになりふり構わずに奮闘する飼育員たちこそが最大の見どころなのだ。
POPを見れば誰が書いたものなのかすぐに分かる、と竹山さんは指摘する。竹島水族館のマニアックな楽しみ方ともいえる。各飼育員の「POP特徴」を簡単に書き出しておこう。
- 館長の小林さん:とにかく文章が面白い。ときに文学的になりすぎる
- 副館長の戸舘さん:写実的な絵で魚を的確に表現。豊富な知識で分かりやすく解説
- 主任の三田さん:絵がかわいい。その魚の食べ方がやたらに詳しく書いてある
- 塚本さん:魚よりも人物の絵を描くのが上手
- 竹山さん:絵が下手すぎることが逆に面白がられている(本人談)
図鑑を見ながらPCで打ったような解説板は、ほとんどの客に読んでもらえない。なぜなら、水族館を訪れる客の99%は勉強ではなく遊びに来ているからだ。楽しんで読んでもらえるPOPにこそ意味がある。竹山さんは目をキラキラと輝かせながら前かがみで語る。
「普通の水族館は水槽を見て『キレイだね』という感想だと思います。でも、ここは笑顔で見てもらい、『楽しかったね』と言ってもらえる水族館です。水槽の外にもPOPなどで楽しい付加価値を作って、トータルで見て、楽しい水族館であり続けたいと思います」
繰り返しになるが、まるで館長のようなせりふだ。しかし、23歳の飼育員である竹山さんに気負いはない。幼稚園生のころから慣れ親しんでいた竹島水族館。進路に迷っていた高校生時代に再訪し、魚にも水族館にも興味のなかった友人たちを一瞬でファンに変えてしまった竹島水族館。その場で働ける喜びをかみしめながら、今日も夢中で働いているだけだ。
著者プロフィール
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している(2018年7月現在で通算100回)。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式Webサイト https://omiyatoyo.com
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