ロードスターの改良とスポーツカー談義:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
マツダはロードスターとロードスターRFを商品改良して発売した。何がどう変わったのか。また、そこに秘められたマツダの思いとは。詳しく解説していこう。
ソフトトップとSKYACTIV-G 2.0
しかしそうなると、ことエンジンについては「ソフトトップにも2.0を!」と言う市場の声がさらに大きくなるだろう。これまでのように「あれはあまり繊細なことを言わない北米向けでして」という言いわけが通用しなくなる。
ここに関してはマツダは頑固である。何しろNDのデビュー時「1.5はいらないから2.0だけ寄越せ」と言う米国に対して「そんなこと言うならNDは1台も出さない!」と啖呵を切ったという。ロードスター30年の歴史を振り返って、世界で一番台数を売ってきた米国マーケットに対して良くぞ言ったものだと思う。
マツダは現行ロードスターの開発に際して「軽快感」「手の内/意のまま感」「開放感」の3つをテーマに置いた。加速タイムが何秒とか、どこかのサーキットを何秒とか、そういうパフォーマンスデータではない。乗って気持ち良いこと。笑顔になれることを目標にした。
そして、予測車両重量に対して各回転域やシーンごとに気持ちの良い加速感をまず設定し、そのために必要なトルクをグラフにプロットしてトルクカーブを描いた。「手持ちのエンジンをチューンしたらこうなりました」ではなく、ロードスターにとって最良のパワーユニットの性能はどうあるべきかから定義し、その実現手段としてSKYACTIV-G 1.5が選ばれ、必要な気持ち良さを実現するためのチューニングが施されたのだ。だからマツダのエンジニアにとっては、ロードスターのためにベストな性能を突き詰めたSKYACTIV-G 1.5こそが唯一無二のロードスター用ユニットなのである。
しかし北米の求めるものは違う。彼らの求めるものは、できればV8の大排気量で抑揚に富んだメリハリボディで、太くてデカいタイヤを履きこなし、踏めば速いクルマだ。以前マツダで、北米が出してきたロードスターのデザインアイデアを見たことがあるが、それらを見る限り「小さく軽い」ことをモチーフとする精神は感じられなかった。どれもACコブラかコルベットに通じる派手で華やかなデザインだった。確かにカッコは良い。だが一言でいって求めるサイズ感が違う。小さいクルマのためのデザインではなかった。
不思議なことに米国人は「小さく軽い」を旨とするライトウェイトスポーツが大好きだ。歴史上も英国のライトウェイトスポーツは米国で爆発的に売れたし、ロードスターもまたそうである。ところが、彼らに欲しいものを聞くと、アメリカンスポーツに引っ張られてしまうのだ。米国という国はデカい。ライトウェイトスポーツの精神を深く理解している顧客も決して少なくはないはずなのだが、それ以上に普通の人はもっと多い。多数派の客の意見は大きくてパワーのあるクルマを志向してしまう。彼らの感覚からすれば1.5リッターの4気筒エンジンはわれわれの思う原付用エンジンのようなものなのかもしれない。
関連記事
- 歴代ロードスターに乗って考える30年の変化
3月上旬のある日、マツダの初代ロードスターの開発に携わった旧知の人と再会した際、彼は厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。果たしてそうなのだろうか……? - 驚愕の連続 マツダよそれは本当か!
マツダが2030年に向けた技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言 2030」を発表。この中で、最も注目されたのは「内燃機関の革新」の中核となるSKYACTIV Xだ。かねてよりマツダが研究中と伝えられてきたHCCIエンジンがいよいよそのベールを脱いだことになる。 - マツダの意地を賭けたCX-3の改良
マツダのCX-3が大幅な変更を加えられて登場した。主査も意地を賭けての商品改良である。どのように変化したのだろうか。 - 「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.